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声を出さずにニャーと鳴く #5 ホラーは夏の風物詩

「おかしいおかしいおかしいおかしい・・・」

主が同じ言葉を繰り返している。今更自己紹介しなくてもいいのに思いながら薄目を開けて様子を伺ってみると、なんだか本当に困っているようだ。どれ、我が輩の出番か。ソファを蹴り、主の足元にちょこんと座ると、声を出さずにニャーと鳴く。主よ、少しは落ち着きたまえ。

「おぉ、梵太郎。聞いてくれよ。僕、これ受け取っちゃったんだよ」

主が指さす先には、ペットボトル24本入りの段ボールが2箱。いつも飲んでる井上尚弥さんがCMしている赤いラベルの銘柄ではなく、伊国で人気のグリーンなボトルが特徴的な硬水のスパークリングでもなく、段ボールの側面には銀色の塗料で”強炭酸水”とだけ書いてあった。

「家族の誰かが頼んだものだと思ってさ。よく確認もせずに受け取ったのだけれども、これ、おかしいよね。伝票見てよ。差出人と受取人にスズキタロウ(仮名)って書いてある。」

『にゃぁ(たしか主の苗字はスズキではなかったな)』

「んで、タロウさんの住所はこの家の住所になってる。それってさ、僕たちが住んでるこの家にタロウさんも住んでて、タロウさんがタロウさん宛に強炭酸水2箱を配達してもらったってことだよね?」

『・・・にゃぁ(ホラーなの?タロウさんなんてファーストネームで馴れ馴れしく呼んでるけど)』

「しかもこの荷物、発送されたのが愛知県なんだけど・・・僕、愛知県に知り合いいないんだよね・・・そういえば、荷物受け取る時サインを求められなかったな・・・なんでだろ・・・・」

『・・・・・・・にゃぁぁ(ホラーにゃの??本当にホラーにゃの??)』

「どうしよう、梵太郎、どうしよう。とりあえず、封を切って一口飲んでみる?」

・・・主よ。バカ主よ。梅雨明けの晴天で喉でも乾いていたのか?熱中症にでもかかって朦朧としているのか?封を切って良いわけないだろう。一口飲んで良いわけがないだろう。運送会社に連絡するとか、色々やることがあるだろう。なにが、

「もしかしたらさ、どこかの秘密結社が作った物凄い炭酸水でさ、100メートルを5秒で走れたりするかもしんないじゃん。オリンピックに出れば金メダルを取れるかもしんないじゃん。まだ間に合うかな」

だ。そんなわけないだろう、間に合うわけもないだろう。我が輩にとっての1番のホラーは主じゃよ、まったく。

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