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声を出さずにニャーと鳴く #9 身近にあるドラゴンボール

「あぁ、今回も出なかったなぁ。ATMを変えてみようかなぁ」

財布の中を眺めながら、主がボヤいている。周りに誰もいないところをみると「独り言」ということになるわけだが、それにしてはいつもより声が大きいのが気になる。お昼寝していたロッキングチェアから飛び降り、主がいるダイニングテーブルへと向かう。作業に夢中の主は、我が輩が向かっていることに気付かない。致し方ない。得意のヘッドバットでもお見舞いしてやるか。

「痛っ。スネ痛っ。梵太郎か、ビックリしたよ。どうしたんだい?もしかして、僕のために来てくれたのかい?読心術でも身につけたのかい?ふふふ。じゃー、聞いてもらっちゃおうかな」

大して痛くもないくせに、衝撃を受ければ「痛っ」と言ってしまう反射のように、ボヤキの声が大きいのは誰かに何かを聞いてもらいた時の反射なのだろうか。だとすれば、我が輩の出番だ。主を見上げ、いつもより少し優しい顔で、声を出さずにニャーと鳴く。

「梵太郎、これ見たことある?一万円札って言うんだけどね。梵太郎が食べてる煮干しとかウェットを買うときとかに使うものなんだけどね」

『にゃぁ(へぇ〜そんな紙切れで美味しいものが手に入るのか)』

「んで、ここに描かれているのが福沢諭吉さんって言ってね、慶應とか作ったえらい人なんだよ。んで、右下に印字されてるのが記番号ってやつなのよ」

『にゃぁ(諭吉ね、記番号ね)』

「何年か前のことなんだけど、記番号の末尾2桁が9A〜9Zの一万円札を集めようと思ってね」

『にゃぁ?(なんで?)』

「ん?なんでかって?風水的なことなのかな?テレビか雑誌で、”記番号末尾2桁が9Zになっている一万円札を財布に入れておくと、金運がアップする”って言ってたからさ。でも9Zだけ持ってても普通というか、ご利益なさそうじゃん?それを見た人の中には、僕みたいに真似しようかなと思う人もいるだろうし。だからね、ちょっとひねって9A〜9Zを集めてみようと思って。なんかドラゴンボールみたいな感じでさ。面白いかなって」

『にゃぁ?(ドラゴンボール?)』

「ドラゴンボールって、7個集めると3つくらい願いが叶えてもらえるんだよ。諭吉の場合はいくつ叶えてもらえるんだろうね。全部で26諭吉だから、ドラゴンボールの3倍以上でしょ。僕が数年がんばっても未だに全部集まらないでしょ。だとしたら、5つは固いでしょ」

『にゃぁぁ・・・(主よ。だとしたらとはなんだ。金運アップはどこいった?いつから諭吉が神龍になった?)』

「ふふふ。どんな願いにしようかなぁ。まずは”最新型のMacBook Pro下さい”って願っちゃおうかなぁ」

『にゃぁぁぁ・・・(願いがパソコンて・・・)』

「でさ、もし本当に願いが叶ったらさ、ドラゴンボールのウィキペディアを書き込んじゃお。諭吉ってドラゴンボールですよ〜って。みんなの身近にありますよ〜って」

・・・主よ。やめておけ。その書き込みは数分で削除されるぞ。主が最新型のMacBook Proを手に入れたのは、貯めた諭吉で買っただけでしょとツッコまれて終わりだぞ・・・

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