持田さん連載イラスト__1_

「香道」 ~ 漂うように 〜 (4)

余白の匂い
日々漂う匂いの体験と思いの切れ端を綴る「はなで聞くはなし」 

前回の記事: 「盆会(ぼんえ)」 ~ いかれたBaby ~ (3)

香りを”聞く”と言い慣わす世界に迷い込んで十余年。
この九月、「香道」を始めて新しいひと回りの年を迎えた。

”香り好き”ではないが”匂い”には興味があった。
「○○は鼻が利くから。」
母からは冷蔵庫に残ったお肉や魚の「お鼻見」をよく頼まれた。

中学三年の春、学習旅行で訪れた京都。行く先々のお寺で「お手洗い」にひっそりと炷(た)かれた線香の清々しく静かな香りに心惹かれ、谷崎潤一郎の「陰翳礼賛」「厠のいろいろ」を繰り返し読んではうっとりとしたのが、遠いきっかけかもしれない。

それから長い年月が経ち、仕事をし、仕事に疲れリセットした長い休暇。興味のまま何にでも手を出そうと思い浮かんだ一つがあの日の香りだった。

香道では「組香」という”香りあて遊戯”を通じて、香木の香りによる愉しみとそれを供する”お点前”を学んでゆく。
ごく控えめな香りと、香木同士の微かな違いの前では、多少自信のあった私の鼻も及ばず、思うように”当たらない”ことが却って長く続ける興味に繋がった。

”当ててやろう”とする小人の思惑が、そちこち飛びやすい心を香りに集中させてくれる。
香りの「聞き当て」は手段に過ぎず、いざなわれる”イメージの世界”に没入し堪能するのが醍醐味。トリップする「仕掛け」としてのゲーミフィケーションといったところか。

旅する先は、四季折々の自然に彩られた抒情の世界。組香のテーマごとに “春のときめき”や”秋の眠れない夜”、”美しい月の様々“や”死ぬまでに見たい絶景”が古人達のリリックと共に繰り広げられる。
只、香席の間どんな景色の中にいるかは其々だ。

「”聞きあて”に汲々とする人」

「”香り”に陶然と時を忘れる人」

「月の光、雨の音、若草の芽吹き……組香のテーマから繰り広げられる”自然のパノラマ”をそこに見る人」

あるいは「描かれる秋の寂しさに心を添わせる”詩人”」もいるだろう。

それは一席の中での私の様々であり、この十余年、強弱を変えながら繰り返されてきた折々の私でもある。

どこにも正解は無いし、どれもが正解。
ここでは「ゲームの勝者」では無く、ひと時をより多くより深く「愉しんだ者」が至福を得るのだから。

二回り目を歩みだしたこの頃、私の興味はあらためて”香り”そのものに戻りつつある。お寺の東司で、雨の音を聞きながら線香の香りに世界が違って見えたように、「香木」の香りにシンプルに向き合い自分だけの時・景色に漂ってみるのも悪くない気がする。

Ochi-kochi
抜けの良い空間と、静かにそこにある匂いを愉しむ生活者。
香道歴いつのまにか十余年

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