ーやわらかな、とこはるー(オリジナル小説)


初めまして。読んでみようと思われた方、ありがとうございます!

今日から、とにかく何か思いを綴ってみようかと考えています。今回はショートストーリーで、小説を書いてみました。

読んで下さった方に、ほのぼのと穏やかな気持ちになってもらえたり和んでもらえたりしたら嬉しいな…というのが、コンセプトです。


ーやわらかな、とこはるー

はらはらと花びらが舞う、春のとある休日。晴れ晴れとした空と、爽やかな昼下がりの日差しが、ちょうどいいくらいの温かさで、とても心地好い。春の陽気に誘われ、私は、近場の桜並木のある川沿いの土手の上を散歩しようと思い立ち、さっと選んだシンプルなニットとひざ丈スカートの上に、お気に入りのショートトレンチを羽織って出かけたのだった。辺りにはちらほらと人影があり、ほぼ満開の桜を見て皆、和やかな表情を浮かべているのが、微笑ましくて心が温かくなる。

(好きな人がいたら、一緒にお花見がしたいな。)ふと、雲のあまり無い澄んだ青空を見上げながら、そんなことを思う。今日の空は、スカイブルー…でも端の方は薄い水色に少しだけ緑が混ざったような色合いでとても美しく、桜だけでなくそちらにも見とれてしまう。

…私にはまだ、相手のことが好き、と認識できるような相手がいない。通っている学校内だと、人気のある男子にはあんまり魅かれないし、異性と意識しないからか友達みたいな関係性の相手ばかりできて、楽しく騒いで過ごす日々。友人達の間では、恋愛にとても積極的だったり、奥手だったりと二手に分かれていた。私は後者で、日ごろ似た者同士と仲良くしていた。恋の経験がないから、前者に何か相談されても答えようがないし…。恋達者の子たちは、知らぬ間に付き合ったり、別れたりしていた。

私も、素敵な恋がしたいと思う。でも、とくにそんな出会いが訪れる気配もなく…気が付いたら、もうすぐ高校も卒業してしまう。

ずっと、恋に恋しているような気がする。ある日突然、ドラマのような劇的な出会いがあって恋愛が始まった!とか、思ってもみないような素敵な相手に告白されたり…。何とも思ってなかった相手に急に恋情が湧いたりして、恋愛関係になったりなんてパターンもあるかな。そんな日が、早く来ないかなぁ。

一陣の風が吹き、私の短めに揃えたボブの髪を揺らす。少しだけ私の髪色は明るく、周囲からは染めてるの?と聞かれるような明るい栗色。

皆、柔らかで穏やかな表情を浮かべて、いつ咲くのかと周りから見守られる中やっと咲いた桜や、心地よい気候を楽しんでいる景色の中、私は一人、しんみりとした心境になってしまう。

その時、後ろから不意に、クラスメイトに呼び止められた。普段あんまりかかわりのない相手に突然声を掛けられて、つい面食らってしまう。でも、何だか清々しい驚き。相手は朗らかそうに微笑んでいる。私も慌てて笑顔を作り、相手をまじまじと見つめた。すると清潔そうな短髪なのに、寝ぐせで右側の一束が少しだけはねているのを発見して、急に親近感が湧いて笑いそうになったけど、何とかこらえた。体調が良いのか、薄手のパーカーにTシャツ、短め丈のゆったりしたパンツを履いている。

彼は自転車で、どこへ行く途中なんだろう?

「親に買い物頼まれてさ。店まで行くついでに、ここの桜を見ようと思ってこの道通ったんだけど。毎年見事だよねぇ。」

そうだね、と、相手につられて私も桜を見上げる。毎年、この長い土手に沿って咲き誇る桜並木は本当に見ごたえがあって、地元や近隣の県では人気がある。

君は、今日は花見?と聞かれて、天気が良かったから散歩に来たの、と答えた。相手は散歩かぁ…と呟くと、段々と真剣な面持ちになった。次の言葉を逡巡しているのか、少し間が開いてから言葉を紡いてくれた。

「あのさ。卒業するまでに言おうと思ってたんだけど、皆がいると恥ずかしくて。なかなか言い出せなかったんだけど…」

どき。急に、こういうこと言われると胸がざわついて、つい期待してしまう。何だろう?私は、うん、と頷く。

「実は、引っ越しで遠方に行くんだ。そのために大学も、その近くに決めてさ…。」

びっくりした。一緒に居るグループとは違うから、あんまり相手のことはよく知らなかったけど…。まさか、引っ越すなんて。しかも遠方の大学受けてたんだ。

「それで…。何というか、引っ越して…ここから遠くに行く、と思ったらさ。君のことが、心残りで。…気になってるって伝えておきたくなったんだ。」

一瞬、辺りが、無音のように感じた。相手の姿しか見えなくなって、息が詰まる。

「あんまり仲良くできなかったから、もっと君のこと知りたくて。僕のこと気になってもらえてるなら、引っ越すまで、会ったり話したりしても…いいかな?」

顔を赤らめながら、おずおずと心情を伝えてくれるのを見て、こちらまで、恥ずかしくなってしまう。これって告白、だよね。まさか、だったよ。

本当は、全く気になっていないクラスメイトだったけど、爽やかに想いを伝えてくれたことを、心から嬉しく思えた。それに、容姿でも持ってるものでもなくて、何故か急に、目の前の相手のことを好ましく感じられている。変な噂も、素行の悪いところもなく、和やかに毎日を過ごしているごくごく普通の男子だった、からだろうか。

こういうことって、あるんだ…。私は知る由もなかったけど、想われていたんだ。この人に。

ちょっと緊張しつつも、嬉しくて微笑みながら相手を見つめる。少しだけ高い背丈にきゅん、としてしまう。彼も恥ずかしそうに目を逸らし、それでも笑顔をくれた。同じく緊張してるみたい。

「今日、偶然だったけど、君に会えてよかった。神様からのプレゼントみたいだ。」

はにかみながらそう言って、照れ隠しなのか、鼻の頭を掻いている。それを見て、どうしてか胸が温かくなって…私は、微笑んだ。

風が吹き抜けて、満開の桜の花びらが舞う。ほんわかとした良い予感が、胸に湧いている。

私たちは、話せば話すほど仲良くなり、卒業し彼が引っ越した後は遠距離恋愛になった。不思議と縁は途切れず、お互いに大人として身辺が落ち着いたころ、自然ななりゆきで結婚した。

(fin)



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