時間が解決する

気持ち悪い、吐き出したい。そんな気持ちで通話ボタンを押す深夜。ふだんより塩味がつよくて、胃のもたれる夜だった。何コールかの末にやっと繋がった暁、話したかったことは結局何も話せずありがとう、と呟き布団を被る。私の記憶ごと夜に混ざって、明日には消えていることを祈って眠る。なのに翌朝、太陽が完全に昇ってもベッドから起き上がれず、重い身体を横たえたまま、天井に向かって伸びるガーベラの輪郭を、ただただ目でなぞるだけの時間を繰り返す。瞼を閉じると、昨晩の光景と、指に触れたポテトチップスのごつごつとした感触と、耳に触れた会話の機微が思い出されて、再び吐き気を催す。どうか、記憶のリセットボタンをください。私のサンタは、冬以外の季節に不寛容だ。訴えは届かず、初春の低い空に登っては、虚しく落ちて、転がっている。

いくつかの夜を繰り返し、記憶は薄れるどころかストレスを眠りに攪拌し続けた結果、夢ばかり見て、それは潜在意識の中にある負の感情を形にした物語で、数年に一度しかできないニキビを鼻とおでこにつくった。ある日の夢では、水着をわすれて下着姿でプールサイドに立ち尽くし、周囲の嘲笑の的となっていた。

連休明けの朝、自重でとれそうな足の重さを引きずりながら、「過去一年間に聴いた曲」という自分の世界に籠りながらも最も簡単にアクセスできる安心を藁にもすがる気持ちで掴み、晴れ空を拝みながら駅に向かって歩く。自分の意思で向かっているというよりも、無意識が気づいたら勝手に歩きだしている感覚だった。ある日、気持ち悪さは突如昇華した。その記憶を二度と引っ張り出すことはない。

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