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「「本を読む娼婦」が教えてくれたこと」 鈴木涼美『娼婦の本棚』

本作は僕が最近ハマっている鈴木涼美さんの書評集である。

「なんとなく、これから身体を売るかもしれない、夜遊びの女王になるかもしれない、くだらない男と住むかもしれない、たまに真面目に友情とか世界平和とか考えるかもしれない女の子に、二〇歳になるくらいまでに本棚に加えておいて欲しい本、という基準で二〇冊の本を取り上げました」

鈴木涼美『娼婦の本棚』

と書いてある通り、これは鈴木さんが自分と似たような女の子に向けて作ったブックガイドでもある。でも、意外と一番読んで効用があるのは、僕も含めた二〇歳くらいの男性かもしれない。なぜなら、ここには「いやあ、僕ではそうは読めなかったなぁ」と感心するほかない鮮やかな切り口があり、「え、女性って本当はそうだったんですか?」と女性から見たら間抜けであろう驚きを隠せない世界の反対側の真実があり、「媚びて承認を求めないと生きていけないっていう点では、誰だって「娼婦」だよなぁ」と考え込まされざるをえない人間に対する深い洞察があるからだ。

「だれも救ってくれないし、だれも自分に意味を与えてくれないそこは孤独ではあるけれど、本当にやっかいなのは、意味や答えを用意しないと、こちらを無価値だと決めつけてくる昼の常識の方かもしれないのです。」

鈴木涼美『娼婦の本棚』

「人の心は基本的に乱れているものであって、それがいいとか悪いとかいう次元の話ではなく、乱れた心との付き合い方を徐々に獲得し、自分の凡庸さを嚙み締めながら、人はなんとかクラブで酔い潰れてトイレでセックスとかはしないでも生きていける程度には落ち着いていくものだと私は思っています。」

鈴木涼美『娼婦の本棚』

また、この本が、そして鈴木さんが静かにしかししっかりと訴えているのは「若さゆえの無駄や愚かさを切り捨てないこと」や「言葉を持って生きていくことの大切さ」である。

「全てが今に繫がったというような綺麗な話にしてしまえればいいけどそういうわけにもいかないし、私は意識の特別低かった者として、全ての無駄が意味のあるものだなんて思ったことはないし、後悔してないことよりも後悔していることの方が多いアドレッセンスだったし、無駄にした時間を取り戻したいと考えたことがないわけじゃないけど、それでもそういう馬鹿みたいな時間も含めた生活だからこそ、死ぬまでは生きていられるのかもしれないとも思うのです。だから、意識が高いという言葉には、ちょっとした敬意と軽い窒息を感じます。」

鈴木涼美『娼婦の本棚』

「若い女の心なんてそう簡単に整うものじゃないのだから、せめて言葉を整えてみることで、少なくとも誰かを泣かせたり自傷的な遊びで疲れたりする青春はもう少し気楽なものになる気がします。逆に言えば、言葉について自覚的であればあるほど、自分の凡庸さは悲観すべきものではないということに気づき、幻の「自分らしさ」を巧みにかざして、生活の荒野を堂々と歩けるものだとも思うのです。」

鈴木涼美『娼婦の本棚』

どんなことも逸脱してみなければ見えないことがある。この本を読んで改めてそう思ったし、読み終えた時にはこれはもうただのブックガイドを超えて人生の一冊になっていた。人生がうまく行っていない時も、うまく行っている時も、そばにあって大事なことを教えてくれる一冊だと思う。

「ただ、そういう愚かさを演じながら、人は生きるという困難な行為をなんとか遂行しようとするものだとも思うのです。痛みを受け入れ、滑稽さを笑い、自己嫌悪から立ち直って明日も生きるためには、その愚かさを愛することこそ鍵となる、と私は信じています。」

鈴木涼美『娼婦の本棚』

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