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[小説]デブでブスの令嬢は英雄に求愛される 第20話

「彼女は噂通り、素晴らしい王女様ね」

 その様子を遠くで扇越しに眺めながら、ジュリアは呟いた。
 ミリディアが先程ジュリアの様子をうかがっていたように、ジュリアもまたミリディアの様子をうかがっていたのだ。
 ジュリアはミリディアがこちらを見ているのを知っていてあえて放置し、その様子を観察していた。

「彼女は優秀な王女殿下です。美しく聡明で、己の立場をよくわかっておられる」

 それに背後から合いの手が入った。ルディだ。
 いつの間に忍び寄ったのだこの男はと内心で悪態をつきつつ、その言葉にはジュリアも首肯した。
 同感だったからだ。
 彼女はとても優秀で立派な王女様だ。
 周りにどう見られているか、どうあるべきか、きちんと計算して正しく振る舞うことができる。

「剣士としての技術も優秀です。魔王討伐の折には適切な助力をいただきました。己の力量を見極め、着実に成果を残す。王女としての振るまいと騎士としての振るまいもきちんと両立なさる。器用なお方だ」
「……そう」

 つまりそれは、でしゃばらずに手を出せる所にだけきちんと手を下すことができるという意味だ。
 集団で戦闘を行う時、一番困るのは自身の力量をわきまえずに行動をする人間の存在だ。ついで、位が高い人間が前線に出張ること。
 いくら実力があっても、高位の人間が怪我をすればそのことで起きる影響は計り知れない。それが王族ともなればなおさらだ。
 彼女はそれを完璧にわきまえている。

「嫌いじゃないわね」
「……そうでしょう。彼女の優秀さは貴方に匹敵するものがある」

 その相槌におや、とジュリアは眉を上げた。彼の白々しい賛辞自体は意外なものではないが、その歯切れの悪さが妙に気になった。

「何か言いたそうね?」
「いいえ、いえ、……はい、そうですね」

 少し考え込んだ後、彼は言いづらそうに重い口を開いた。

「彼女は優秀ですが、その優秀さのベクトルは貴方の長所とは相反するものがあると思っていたものですから」
「……? どういうこと?」
「いえ、俺の勝手な思い込みです。忘れてください」

 そのいかにも誤魔化すような返事にジュリアは鼻を鳴らす。

「なぁによ、はっきり言いなさいよ。私が余所の優秀な女をひがむような豚だと思ってたんだって」

 半眼で覗き込んだ目に、そのまま真っ直ぐと視線が返される。その翡翠の玉の強さに怯んで、ジュリアはそこで言葉を詰まらせた。

「まさか」

 どこまでも静かに、けれど明瞭に彼はその三文字を口にした。

「貴方はそのようなことは絶対になさらない、ジュリア」
「貴方が私の一体何を知っているというのよ」

 その視線にいささかたじろぎながら、けれどそれを気取られるまいと虚勢の笑みをジュリアは浮かべる。それをどこまでも冷静に見下ろして、男は真顔のまま、真剣に答えた。

「貴方は、他者と自分を比べることの虚しさをよくよく理解していらっしゃる。そのような無益なことは例えなさってもすぐに律されるお方です」

ぐっ、と言葉に詰まる。正鵠を射ていたからだ。
ジュリアには他者と自分を比べて落胆する暇などない。そんなことをしている間にも時間は刻一刻と流れていくのだ。
もっと建設的なことに時間は使いたい。

「違いますか」
「……どうかしらね」

 けれどいかにも理解しているという風な男の態度が気に喰わず、肯定を返す気にはならなかった。

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