[小説]やさしい吸血鬼の作り方9

――深夜2時、カヅキは月明かりの元、自身の胸元から取り出したものを見ていた。
 それは月をモチーフにした形をしたロケットだ。蓋を開けると白黒で古ぼけた、けれど大切に保管していたためか決して色あせてはいない写真が丁寧にガラスに閉じ込められている。
 そこには3人の人物が写っていた。一人は今よりも少し幼いカヅキの姿だ。得意げな表情でピースをしてみせるその背後には裾の長い白衣を着た若い茶髪の男性が立っている。どこか冷たげな印象を与える整った面差しのその人物は、けれど口元に緩く笑みを浮かべていた。
 そしてその二人からわずかに離れた位置に素っ気なく立つもう一人の少年がいる。黒い針金のように真っ直ぐな髪に、黒い瞳。にこりともしない仏頂面で、ただカメラのレンズをぼんやりと見つめる子どもの姿。

「……どこにいるんだよ、兄貴」

 カヅキは困惑したようにそう呟いた。
 写真の中のカヅキは現在のカヅキと同じような赤いパーカーと黒いキャップ帽をかぶっている。そしてもう一人の少年はそれと対になるように黒いパーカーと赤いキャップ帽を身につけていた。
 それは記号のようなものだった。特に服装にこだわりのない二人に養父から与えられた一揃いの衣服の色。始めに与えられた服が着れなくなっても、新しい衣服を買っても、その色合いだけは変えたことがなかった。
 カヅキも、――そして勿論、兄も。
 カヅキはぎゅっとそのロケットを胸元で握りしめる。

「まさか、兄貴じゃないよな……」

 そう口にしつつもそれを否定できるだけの材料の持ち合わせはなかった。
 だって、カヅキの兄は―――、

「カヅキくん?」

 掛けられた声に肩を震わす。振り返ると月明かりを背にしてミヤマが部屋に入ってくる所だった。彼は肩に大きなスコップを背負っていた。

「ひとまずちょっと離れたところに穴を掘ったよ。朝になる前に埋めに行こう」

 彼が目線で庭先を示す。そこにはとりあえず訪問者を誤魔化すために屍食鬼の死体の山が藁で隠された状態で放置されている。
 カヅキは努めて、明るい笑顔を作って笑った。

「今行きます」

 カヅキはミヤマの方へと歩み寄る。しかしその際にカヅキはロケットを服の中にしまったつもりで、そのチェーンが壊れたことに気がつかなかった。
 小さな音を立ててロケットは床へと落ちると、数回跳ねながらベッドの下へと転がり込んで止まった。
 二人が出て行った後、ぱたん、と音を立てて家の扉は閉まり、室内は暗闇に包まれた。

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