[小説]デブでブスの令嬢は英雄に求愛される 第22話

「ちょ、ちょっと話し合わないかしら?」
「申し訳ないけど遠慮させていただくわ。貴方とは話が合わなさそう」
「だからっていきなり肉体の関係を持つのはまずいと思うの!」
「紛らわしい言い方をするんじゃないわよ! 安心してちょうだい、私の手は指先一本ですら貴方に触れる気はないわ!」

 護衛が恭しく差し出す鞘から、すらりとその刀身を抜いてミリディアはその切っ先をジュリアへと向けて微笑んだ。

「触れるのは、鉄の塊よ」
「あらやだ、刺激的」

 そう軽口を叩きつつ、ジュリアの頬には冷や汗が伝っていた。
 一体なぜこうなったのか。――いや、いつかはこうなるかも知れないとは彼女が領地を訪れた時にも少し考えてはいたが。

 右を見る。
 右側にいた人並みがその視線を避けるように一斉に引いていった。

 左を見る。
 左側にいた人々もまた、視線を逸らしてさぁっと後退った。

 正面を見る。
 彼女の目は――本気だ。

「ジュリア・レーゼルバール」

 凜とした声と姿勢。静かな瞳が冷徹に告げる。

「剣をとりなさい」

 彼女は先程まで持っていた美しい扇をジュリアの目の前の地面へと叩きつけた。
 ジュリアの頬が引きつる。しかし、ここまでされて大人しく引き下がるジュリアではなかった。

「バルト、剣を持ちなさい」
「お、お嬢様……」

 ぱぁん、と乾いた音が響く。
 脇に控えていた執事がおろおろと戸惑うのをミリディアの投げ捨てた扇の上に、自らの扇も重ねるように叩きつけることで黙らせたのだ。

「その勝負、受けてたつわ」

 上等、といいたげに王女は鼻を鳴らした。

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