[小説]やさしい吸血鬼の作り方8

 細長い獣道をララはこつこつと靴音を立てながら歩いていた。
 バッグの中の蜂蜜が重い。けれど彼女の歩みは早い。
 青い瞳がちらり、と背後を覗う。もうカヅキの家の姿はなかった。

「……あの人」

 小さな声で呟く。思い出すのはミヤマと呼ばれていた屈強な、けれど引き締まった体躯をした男の姿だ。
 まるで全身が鋼の武器のように鍛えられた男のようだと思った。
 しかし重要なのはそんなことではない。屍食鬼と戦っていたあの時、確かにララはあの男の瞳が黄金色に輝くのをこの目で見たのだ。一瞬で消えてしまったあの光。けれど確かにララは見た。
 それを口にしなかったのは、カヅキが随分とあの男を慕っている様子だったからであり、結果的にとはいえ命を助けられたからだ。

(カヅキくんは気づかなかったのだろうか)
「――それとも」

 気づいていてそばにいるの――?
 続きを声に出すことは出来なかった。道の前方から何かが近づいて来ていたからだ。

「あらぁ、ララちゃんじゃないの」

 そう言って目の前に現われたのは村長の娘――サンドラであった。

「サンドラおばさん」

 ララはほっと胸をなで下ろす。

「もしかしてカヅキくんのところに行っていたのかい?」
「ええ、豆乳をお裾分けしに」
「ああ、あたしも受け取ったよ。ありがとうねぇ」

 にこにこと朗らかに笑う彼女は、けれど手に何かの紙切れを握っていた。
 それに不穏なものを感じ取ってララは目を細める。

「おばさん、その、それは……」
「……ああ、」

 微笑んでいた彼女の瞳が陰った。その表情はよく見るとひどく憔悴しているようだった。
 目の下に隈らしき影が刻まれ幾分か老け込んだように見える。
 彼女はのろのろとそれを広げて見せた。
 ララは息を飲む。
 そこにはララ達の住むレンリ村の住民が一人、吸血鬼に血を吸われたと思しき痕跡を持って死体となって倒れていたとの報が書かれていた。

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