どうせなら最後まで少女漫画がよかった
15歳、君と出会い、
19歳、君と離れ、
20歳、君と再会し、
23歳、今もまだ私の青春は色あせることなく君との未来を夢見ている。
なんてはじまる少女漫画を小学生のときに読んだ記憶がある。もうあの頃読んだ少女漫画に夢見るほど子どもじゃないし、それなりに酸いも甘いも経験してきた。周りの友人たちだって果敢に恋をしてきたから、恋愛偏差値でいうと65越えの猛者たちばかりだ。
進学校にも関わらずメイクとおしゃれをして、現役で国内トップレベルの国公立大学に現役で進学。大学時代は花形サークルに所属し、バイトしつつ海外旅行にもたくさん行った。大学内の人脈と顔の広さには自他ともに自信があった。就活では夢をつかんで大好きな美容関係の仕事に就き、家族仲もよく、男女問わず友人にも恵まれているわたしは世間一般的に見れば女版「人生の勝ち組」だろう。
そんなわたしには7年付き合っている彼氏がいる。高校時代からずっと付き合っている彼氏だ。お泊りしたら、朝にはココアを入れて「これであったまってね」ともってきてくれるし、料理男子でご飯はおいしい、倹約家で貯金もしっかりしていて、お金はかけるべきところを見誤らない。ギャンブルはぜったいにしないし、頭の中には「浮気」という単語すらない誠実でまじめな人だ。友人たちからの人望も厚く、親公認。高校時代はサッカー部エースでキャプテン、背番号10番。
まるで少女漫画にでてきそうな学年一の人気者と、少女漫画よりも少女漫画みたいな恋をしてきた。付き合ったときには、納得いかなかったけどわたしは学年中から「シンデレラガール」と言われた。余計なお世話だ。
高校生のときはお互いの部活終わりに待ち合わせして一緒に帰った。帰り道の公園で何度もキスをした。体育祭も文化祭も、修学旅行も周りに冷やかされながら、一緒に写真を撮った。サッカー部の応援にはどこまでも行ったし、後輩たちからも憧れのカップルとして映っていると何度も聞いたことがあった。いたってどこにでもある、いたって普通の恋愛がまさかこの年まで続くなんてだれが想像できただろうか。
大学時代にはバイト帰りに迎えに来てくれたり、一緒に旅行にいったり、課題をしたり、よくしょうもないことでけんかした。
いたって普通のどこにでもいるカップルだった。
そう、これはどこにでもいるいたって平凡なカップルのお話なんだと思う。どれだけロマンチックに物語を書いても、客観的に、そして事実として平凡なふたりなんだと認識している。
そしてそのふたりが就職を機に、遠距離になってしまうなんてエピソードを加えた日には、もうありきたりすぎて笑ってしまう。
でもありきたりだからこそ、本人にとっては息がつまるくらい苦しくてどうしようもないのだ。現実的な解決策なんていくらでも思いつく分、映画みたいなエンドロールは流せないし、そんな甘ったるい終わり方ができるほど、人生は優しくない。
先日、勇気を出して彼に聞いてみた。将来のことを切り出したのは就職が決まった以来だった。彼の返事は「期待に添える返事はできないかな」だった。なんとなく、心の奥底で分かっていたことが体中駆け巡って、わかっていたから、涙は出なかった分、将来が絶望的なことに対して吐き気を覚えた。
それでも彼は言う。「次は〇〇行こうね」「今日は来てくれてありがとう。大好きだよ。」
高校生のわたしだったらうれしくてすぐにSNSを更新していただろう。あの頃はあんなに貴重だった「大好き」が今はこんなにも切なくてもろいものになってしまった。
お互いが応援して、ふたりともが手に入れた夢と引き換えに、最愛の人との未来を手放さないといけないなんて最後までありきたりな話になるのもそう遠くないのかもしれないな。
なんて。
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