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碧海祐人インタビュー 音楽における言葉の捉え方と『夜光雲』アートワークに込めた意味

抽象的ながらも風景が浮かぶ歌詞、空間をたゆたうメロウなサウンド。愛知県出身シンガーソングライター・碧海祐人(オオミマサト)の楽曲を聴いていると、音と言葉が聴覚だけでなく視覚にも干渉するような不思議な感覚に陥る。

本稿では、ヒップホップやアンビエント音楽の影響も彷彿とさせる碧海の音楽にある、上記のような印象のルーツをインタビューによって解き明かす様子をお届けする。歌詞や言葉、自身の感情が音楽にどのように影響しているか、また最新EP『夜光雲』について語ってもらった。

余白を残しつつ、世界観の隅々まで伝えられるような言葉の印象を選びたい


――音楽を作るようになったのはいつ頃なんですか?

碧海:オリジナルは高校生のときくらいかな。高校までは弾き語り程度でギターを弾いていたりしたんですけど、高校生のときに遊びみたいな感じでバンドを組んで。それで演奏側に回ってみて、曲を作ってみたい気持ちが芽生えてきて、ひとりで作ったりしていました。
大学生になってPCを購入したことがきっかけで、DTMをやろうと思って。そこで面白いアレンジをしたいなという気持ちが強くでてきて、ジャンルであったり自分の中である種体系化しながら音楽を聴くようになったのかなと思います。

――歌詞の感じが抽象的でもあり、情景が浮かぶようでもあります。言葉の方のルーツというか、影響を受けたものなどはあるんですか?

碧海:最近読んでいるのは村上春樹さんなんですけど、特別多くのものを読んでいる中から村上春樹さんが好きですって言っているわけでもなく。たまたま最初に読んで面白いなと言っているだけなんですよね。
ただ、歌うのは昔から好きで。歌というか、音楽の中にある音のひとつとして言葉を捉えるというのは昔からやっていたかもしれないですね。

――文章としてではなく、音楽の要素として。

碧海:そうですね。言葉としてというより、音の配列として捉えたときに自分の口が気持ちいい感じとか、違和感のない言葉や音を選びたいというのは意識的にやっていますね。

言葉の意味が音楽の本質に干渉しすぎるのが僕としては結構嫌で。言葉を聴かれすぎているという感覚も若干ありますし、それだったらTwitterに詩を載せておけば全て伝わるんじゃないかとも思うので。
あくまで余白を残しつつだけど、世界観の隅々まで伝えられるような言葉の印象であったり、そういうものを選んでいきたいっていうのは思っています。

――曲ができてから、音にはまるように詞を考える感じになるんですか。

碧海:結構バラバラなんですけど。最近だと、元々僕の方で感じていた感情の質感みたいなものを言葉にしてメモに残してあるんですよ。それとは別にビートのデモみたいなものをループで作って。言葉で作った曲の種と、ビートとかコード進行の種を擦り合わせていくみたいな作業が多いです。そういう意味では言葉が先なのかもしれないですね。

――曲に自分の感情を落とし込んでいるんですね。

碧海:そうですね、でも割と情景も考えていて。僕の目から見えている、と言ったら画だけの意味になってしまいそうなんですが、そのときの一瞬の感覚って言うのかな、見ているものと、その雰囲気とか空間の感じと、自分の中にある感情とかそのときに思い詰めていることとか、そういうのが合致した瞬間、タイミングを落とし込みたいなと思っていて。その質感を言葉でメモに取っておくっていう。

――思い出を残しておきたい、みたいなことですか。

碧海:近いかもしれないです。結構それはネガティブなこともあるんですけど。思い出というか記憶というか。


『逃避行の窓』から足を踏み出した『夜光雲』


――最新作の『夜光雲』は昨年の12月リリース。『逃避行の窓』から3か月ですよね。これは新しくEPを作るぞという意気込みで作り始めたものですか?それとも曲ができたからまとめようという感じだったんですか。

碧海:どっちだろうな。気持ちとしては半々くらいだったと思います。発端として、曲を2、3曲作っていたんですよ。でもその方向性がまるで違っていて。
『逃避行の窓』で、自分のやる音楽の位置というか、このあたりのものをやりたいっていうのが点で示せたような気がしたんです。それを次のEPで拡大できるようにというか、足を踏み出していることがわかるようなもので、かつ『逃避行の窓』の続きでもあるようなものを短いスパンで出したいなっていうのはありました。

――1曲目「眷恋」の最初のテープみたいな音の質感も、さっきの話に出たような思い出っぽいなと思いました。

碧海:これはコード進行が先にできたのかな。曲のデモができたときに、そこに入るギターのフレーズを色々試しながら遊びで録っていたんですけど、そのときの一節です。こういうのを弾いてみるかみたいな感じで。最後に笑い声も入っているんですけど、それもその一部で。昔の青い頃を思い出して自分を笑っているようなテイストの楽曲でもあるかなと。そういう内面的なところもあの曲には入っているので。遊び心として最初と最後にいれようかなって。

――「逃げ水踊る」では浦上想起さんとコラボしています。浦上さんとコラボをするきっかけはなんだったんですか。

碧海:浦上さんのことは元々すごく大好きで、EPも2020年多分一番聞いていますし、その前からYouTubeに挙がっていた曲を聴いていたんです。
「逃げ水踊る」が自分だけで一旦完成して、デモ音源ができたタイミングで、ちょっと足りないなというか、普通だなと思ったんですよ。その足りていない部分を浦上さんが持っていないかなと思った。
それと、これは個人的な考えなんですけど、「逃げ水踊る」で歌っていることと浦上さんが曲の中で歌っている感情が若干合っていたというか、勝手に共振したつもりでいて。これは勝手に思っているだけなんですけど。それもあって、浦上さんがここに入ってくれたら特殊なというか、不思議なものができないかと思って声をかけさせていただきました。


――今回のEPはアートワークもご自身で手がけたんですよね。

『夜光雲』アートワーク

碧海:そうですね。これ結構理系っぽい作り方をしているんですよ。紐解いていくとジャケットにすべて意味があるんですけど…。これ今までどこでも聞かれていないんですよ。
いいや、全部喋っちゃおう、隠しておいてもしょうがないですもんね。

――ええ、いいんですか。秘めておいていただいても…

碧海:大丈夫です(笑)これ、3つくらいに絵の具っぽい感じで色が分かれてるじゃないですか。その奥に3本縦に線があって4つの区域に分かれているの分かりますか?

――はい。分かります。

碧海:それぞれの曲に対して僕がイメージした色を、4つの区域にそれぞれ当てはめてるんですよ。それをぐちゃって混ぜているんですけど。

――この縦に入っている線が境界っていうことですよね。

碧海:そうです。うーん、作り方を説明しちゃうと、まず元々自分で撮った雲の写真があるんです。その写真を絵の具が溶けているみたいにぐちゃぐちゃに加工して、縦に4分割しています。その上にそれぞれの曲からイメージした色を4つ入れて。左から「逃げ水踊る」「眷恋」「夜光雲」「hanamuke」の順番で。それで、その色を混ぜるっていうことをしたんです。

ジャンル的にもそうですし、自分の中でもごちゃまぜになっているよっていうのがコンセプトでもあったので。それぞれに色があって、それが混ざりあっている。さらに元々あるものも歪んでいるよっていう。それをジャケットでやろうと思ったんですが、やっぱり難しいですね。

――面白い!色それぞれに意味があったんですね。

碧海:はい。で、並び順なんですけど、左から段々曲の長さが長くなっていくんですね。「hanamuke」が一番長くて「逃げ水踊る」が一番短いんです。それでこの縦の4分割、実は均等に4分割されていなくて。それぞれの曲の長さの比率で縦に割られているっていう工夫をしているんですよ。言わないと絶対に誰も気が付きませんけど(笑)

――そうだったんですか!緻密に考えられている…

碧海:でもこれ、僕はアーティストじゃないなってすごい思いました。理系っぽいじゃないですか。「ここにはこういう意味があって」って全部意味付けしていく感じが理系だなって。どっちかというとデザイナーと近い考え方だなって思いましたね。
僕大学でデザインを専攻していたんですよ。だから論理的に一個ずつ踏んでいくっていくことを無意識にやってしまっていると思います。

――なるほど。ジャケットの並びはアルバムの順番とは違うんですね。

碧海:アルバムは順番に流して聴く人ももちろんいると思うので、流して綺麗な形が良かったし、『逃避行の窓』の先にあるものだったので、そのあとに聴いてもいいようにしたいなと思っていて。そうすると最後は「夜光雲」だなってなるし。『逃避行の窓』の最後が「秋霖」なんですけど、そのあとに何から始まったら自然かなって思ったときに、こういう並びになりました。
ジャケットも、縦で割ったときにいろいろ並び順を試してみたんですけど、やっぱり左から徐々に長くなっている形が一番綺麗だったので。結果的にそれもあんまり分かんないジャケットになりましたけど。


遊び心が否が応でもでてきてしまう


――碧海さん、noteも書かれていますよね。リリースしている楽曲の解説であったり。

碧海:『逃避行の窓』のときは余地をちょっとは残しつつ、全曲解説に近いものをやりました。1枚目だしいろいろ言いたいこともあるし、記念として書いておこうというか。そのときの体験とか作っていた環境とか、思っていたことを残しておこうと思って。でもちょっと書きすぎたかなって。

それで今後noteの立ち位置どうしようかなと思ったんですけど、楽曲で言い切れなかったことを補完するものでありたいなというのは思っていますね。
言葉だけで完結することであったり音楽が必要ないこともあると思うので、そういうのは言葉だけで出してしまった方が綺麗かなと。

――碧海さんの中にある世界を表現しよう、説明しようという気持ちが文章にも出ている気がします。

碧海:昔から世界をつくるとか、学校で言えば図画工作とか美術の授業は大好きで。真っ先に美術室に行って真っ先に作業始める人間だったので。
あとは結構ぬいぐるみが好きで。ぬいぐるみで遊ぶって世界をつくるってことじゃないですか。その場に登場するキャラクターをぬいぐるみに憑依させて、世界観とか設定とかを全部妄想して遊ばせるということをよくやってたんです。今やっているのもそれに近いのかなというか。自分の理想の世界観であったり自分の作りたいなと思うものをなるたけ綺麗に落とし込む動きっていうのかな。近いかどうかはわかんないですけど、その延長というか地続きにあるような気は今もしています。

音楽をつくるのも遊びの延長としてなんですよね。さっきの「眷恋」の話もそうですけど。遊び心が否が応でもでてきてしまうというか。それが時々よくない方向になることもありますけど。

――『夜光雲』は「4つの桃源郷」だとリリース時のコメントにもありましたけど、それも作りたかった世界ということですよね。

碧海:そうだと思います。それぞれの楽曲は自分の中で構築されたひとつの世界観で、自分の記憶と結びついている場合もあるんですけど、自分の記憶になかったものを音楽に登場させることもできるわけじゃないですか。そういう頭の中でできたひとつの一瞬――もっと長い場合もありますけど――を、切り取る。1曲にするっていう。そのなかにあるものは自由だしっていうのは思っていますね。

――そうして構築した楽曲を自分で聴いたときってどういう感覚になるんですか?

碧海:それこそ昔学校でつくった絵を見ている感覚には近いかなと思います。そのときにしか思ってなかったこともそこに書いてあるし、その色使いせんやろってことも今見るとあるし。やっぱり懐かしさはある程度あるかなと。『逃避行の窓』に関してはまだ全然時間が経っていないというのもあって、そこから僕も大きく変わってはないので「いいな」って思います。

――そういった楽曲がどのように聴かれたいなという思いはありますか?

碧海:自由に聴いていただけたら。言葉が弱いというか、言葉の意味自体明確ではない分、言葉を追わずにというかBGMとして流しておいても成立するバランスかなとも思っているので。いろんな聴かれ方をしたいですね。ラジオから流れてきて、なんかいいなって4分間耳を傾けていただけるだけでもすごく幸せです。

2021年のうちにアルバムを一個作ろうと思っているので。また全く違ったものになると思います。

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碧海祐人Twitter
https://twitter.com/masat_o_mi?s=20

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