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今月のピックアップバンド 4月編

とあるライブハウスに週3~4ペースで出入りしている筆者が、月ごとに気になった/見てよかったバンドを書き残しておくnote、4月編

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そう大きくない、ライブハウスと呼ぶのにふさわしい程度の場所でライブをみていると、動員を増やしたり音源を売るといった本人たちが望む何らかの結果を出すために、いかに運や縁が必要かに気付く。そもそも、音楽をする目的自体なんらかの結果を出すことである必要はない。
また、動員の多さや知名度が音楽の質――どのようなものを質が良いとするかはともかく――に比例するとは限らないことを改めて実感する。
これは当然のことではあるものの、現代の音楽ヒットはそのことを忘れがちな構造をしている。

最初から注目を浴びやすい場にいた者や既に注目の途上にいた者が、いくつかのはたらきかけをきっかけにして突発的に人気を得ることも多い国内の音楽ヒットの構造。リスナーが能動的にならないと関心外の音楽やヒットに至っていない音楽は視界に入りにくい。デジタルプラットフォームは使い勝手もよく、そのシェアは遅いながらも拡大しているが、CDショップを眺めるようにして様々な音楽を発見することができるかと問われれば、否だ。

音楽にジャンル分けが必要かどうかといった議論があるが、音楽的な特徴を元にしたジャンル分けとは別に、活動拠点の違いによるジャンル、文化は存在する。ストリーミングでの再生回数上位にランクインするような流行りの音楽があると同時に、ライブハウスではライブハウスの文化が形成されているのである。

とはいえ、どこを拠点にしているアーティストの楽曲であれ、新たに発見したアーティストや好きな楽曲をシェアしやすいのがストリーミングの利点だ。出入りしているライブハウスで見たバンドやアーティストを共有しようと思う。

anchorage





ギターとキーボードが生み出す疾走感ときらびやかなボーカルがこの上なくストレートな歌詞をリスナーに放つanchorage。ライブでは演奏の迫力とボーカル・松尾が表現する切実さが足され、ライブハウスの熱気も相まって胸を打つ。まっすぐな感情表現がありつつも心地よく聞けてしまうのは、親しみやすいメロディのおかげだろう。愚直な歌詞とキャッチーなメロディのバランスが泥臭さを消し去っていた。

終わらないで、夜





夜が明けるまでの風景描写を表現する、終わらないで、夜。
夜というモチーフは虚無感や寂寥と結びつけて描かれることが多いが、歌詞が纏う文学的な雰囲気が楽曲を必要以上の悲観に沈ませない。歌詞で増幅させない感情は歌唱によってあらわされるが、ライブの熱と歌詞内容の表現としての悲哀のどちらも感じることができる。静かな立ち振る舞いでありながらも、ここぞとばかりに発揮される哀しみや葛藤を纏った絞り出すような歌声は聴くものをはっとさせる感情の強さを感じた。

27〈HATANANA〉





パワフルでのびやかなボーカルが紡ぐ希望的な歌詞。力強さと同時に、「人間」「愛」といった大きい主語は包容力のような柔らかさや温かさを感じる。歯切れのいいギターが親しみやすく、輪をかけて楽曲を明るい響きに仕立てている。
ライブでは観客とアーティストが目の前で向き合うことによって楽曲を通じた感情のやりとりがリアルタイムで行われていると感じることがある。27〈HATANANA〉がパフォーマンスをした際の幸福感は、まさに楽曲の力で観客とメンバーが通じ合った瞬間なのではないだろうか。

シゼントウタ





生活音と男女のぽつぽつとしたやり取りのSEが強烈に印象に残っている。脳裏に情景が描かれ、一瞬にして引き込まれた。
対バン形式のステージにおいて、どれだけ自分のバンドに意識を持ってきてもらうかという点は重要だろう。薄暗い照明のもと、情景の想像を掻き立てるSEののち、提示した世界を拡張するように日常的でほろ苦い楽曲を披露。若い男女の小さなすれ違いなどを、日常に潜む感覚を用いて中性的に歌い上げる。バンドの楽曲の特色を以てステージの色をガラッと変えたことに驚きをおぼえた。


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