③再生少女”Death”(連載恋愛小説)運命の結婚式前夜
のどかな5月1日。私は今日で29歳になった。私の隣にいる彼、海音かいとくん。今日は私が病み上がりだったため、家でお祝いすることにしたのだった。海音くんは、「すず、お誕生日おめでとう。」と言って、2人には大きすぎるケーキとオシャレで小さな箱を渡した。
「プレゼントの中、見てみて。」
彼は瞳を輝かせながら言った。
私の前では飼い主をずっと待っていた子犬のようになるのだ。そんな彼も職場では、クールで有名らしい。海音くんは、潤んだ茶色く青みがかった瞳で私を見つめる。
本当にまつ毛が長いなぁ。私は子犬のような笑顔も、見つめてくる真剣な瞳も大好きだ。
彼がくれたプレゼントをそっと開ける。中にはブレスレットが入っていた。本当に綺麗でこんなにも美しいものは初めてだった。
「今年はブレスレットだけど…、その来年は…。」
そう言って、海音くんは顔を赤くした。
「来年は、…指輪にしたいんだ。」
彼が真っ直ぐに見つめてくる。瞳に吸い込まれてしまいそう。私も今年で29歳だ、いつ結婚してもおかしくはない。以前、私は彼にそれとなく結婚の話をしたことがある。すると彼は、「すずが30歳になったら必ずしよう。」と言って、なぜか私の”30歳”に拘るのだった。
さほど、気にしてはなかったが。
私が次の言葉に迷っていると、彼はそっと私の口にキスをした。
しっとりと優しいキス。
彼は泣いてしまった。
その茶色く青い瞳は今にも零れてしまいそうだ。そんなに緊張していたのだろうか。キスは初めてじゃないのに。
「ありがとう、嬉しい。でも、緊張しているの?泣かなくても…。」
彼が泣くなんて珍しい。
「絶対に幸せにするから、後1年、後1年…、楽しもう。」
彼は涙を浮かばせながら、震えた瞳を私に向けた。
「うん!楽しもうね。」
と、私は一言伝えたのだが…。なんだか、最後の別れのようだ。
ー1年後ー
4月30日。明日は私の誕生日だ。今、2人で有名な和食屋さんに来ている。向かい合って夕食を食べている海音くんと私は明日、結婚式をあげる。私は緊張と楽しみで胸がいっぱいだった。
「明日で家族になるね。僕と一緒になることを選んでくれて本当にありがとう。大好きだよ、これからもずっと…。」
海音くんは、じっと私を見つめる。
「海音くん、ありがとう。嬉しいけど、そういうのは明日言うんだよ。」
私は、海音くんのストレートな甘い言葉になんだか恥ずかしくなって、「私も大好きだよ!」なんて、言えなかった。ほんの一瞬、海音くんの目が微かに潤んで悲しい目をした。海音くんはいつだって私を気遣ってくれたし、今みたいに、甘くて温かい言葉をくれた。
3歳年下の彼だけど、私の方が素直になれなくて。それでも、彼は真っ直ぐに私を見てくれた。
やっぱり、大好きって伝えなきゃ。
「じゃあ、帰ろうか。」
海音くんは冷え性の私の手を握り、お店を出た。私と海音くんの家は反対方向だったけれど、彼は何も言わず、2人で私の家の方へ向かった。
「ありがとう。」と言うと、「暗いからね。」と言う。
結婚前最後の2人の時間を過ごすつもりだった。このお店から私の家までの距離は、歩いて15分くらい。
本来ならば、何事もなく家に着くはずだった。
それなのに…。
急に私は激しい目眩を起こした。
身体が勝手に動く…、意識が遠のく…。
握っていた彼の手を思いっきり振り払った。私の身体は操り人形のように、暗い道路へと飛び出した。
「すず!」
…と…いと…、海音…、海音くん!…ねぇ…、やだよ、海音…。
道路へ飛び出した私をとっさにかばい、海音くんはトラックにぶつかった。
海音くんは,一瞬でこの世を去った。
海音…、海音くん!海音くん!…お願い、海音くん…。
私を掴んでいた海音くんの腕が、ゆっくりと冷たくなっていった。
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