Photoshopが世に出る前に、すでにジェリー・ユルズマンがいた
私の師は J・ユルズマン ~ フォトモンタージュの巨匠
80年代は、まだフィルムカメラ全盛時代で、中古の一眼レフカメラで気の向くままに主に自然や建物を撮っていました。やがて就職し、カメラや芸術とは全く無縁の日々が続きました。
90年代のある日のこと、何かの美術雑誌で目にして強い興味をひかれたのが、Jerry Uelsmann ジェリー・ユルズマン というアメリカの写真家の以下のような合成写真でした。
私はこれを見て強烈な影響を受け、自分もこのような作品を創りたいと思いました。当時はまだデジタルカメラは持っていなかったので、フィルム・カメラ本体の多重露光機能に頼るしかありませんでした。そうして何とかできた試作品のひとつが以下のようになりました。
しかし、ここまでが自分のできる限界地点となり、以後はもう作成することなく長い年月が過ぎました。
2006年、早期退職して時間の余裕ができたので、かねてより欲しいと思っていたパッケージ版 Photoshop CS1 を購入、私の中に「ユルズマンのような作品を創りたい」という思いが再燃しました。
ユルズマンとは?
1934年アメリカ生まれのJerry Uelsmann ジェリー・ユルズマンは、複数のネガを暗室作業による多重露光やフォトモンタージュ技法で合成した作品で有名な写真家です。
高度な技術に頼った単なる合成写真で終わらず、彼の作品が芸術にまで昇華されていると思うのは、シンプルでありながら見事な構成から放たれる斬新なイメージ力です。
そして、アナログ技術のため必然の選択でしょうが、その白黒写真の効果は絶大です。巷にあふれる高度なデジタル技術による画像加工やグラフィックとはどこか大きく違う独自の魅力を感じます。
当時も今も、日本国内では彼に関する本や作品集はないので、大型書店の洋書コーナーや通販で彼の輸入写真集を手に入る限り購入しては、飽きるほど眺めて、その鮮烈な美しさに魅入られてしまいました。
合成なんて、写真の王道ではない・・と思われている
こうして彼のたくさんの作品を見てきた私にとって、20世紀後半の美術家・写真家たちが試みてきたさまざまなアプローチは、ユルズマンの作品の中にも見受けられます。そして、そのような作品を彼は60年代からすでに創っていたことを考えると、彼のあとに生まれた世代のアーティストたちにも影響を与えていることは明らかです。
現在もユルズマンの作品と業績は、この日本国内でほとんど話題になることはなく、知る人ぞ知る、という存在のようです。おそらく、目の前の被写体をレンズで捉えた決定的な瞬間を一枚の画像にして(多少はレタッチするでしょうが・・・)世界観を創り出す写真家たちとは、そのアプローチ法が
全く違うからでしょう。
合成処理で架空のイメージ世界をひたすら追求するユルズマンは、決して写真の「王道」としては扱われていないからだろうと、残念ながら思わざる負えません。
とはいえ、合成写真に関して私に与えた影響の強さでは、彼以上のアーティストを他に知りません。そういう意味で、ユルズマンは、私の唯一無比の「師」なのです。
CGアニメやゲームのデジタル合成された世界観
2023年現在、この note で #合成加工、#合成写真、#photoshop とかで検索をかけると、さまざまな趣向の作品を目にすることができますが、数枚の画像を重ねて元画像が何かすぐわかるパターンの静止画が多いようです。むしろ、ゲームやCGアニメで想像された架空世界の動画のほうが超高度で緻密な合成技法が使われている印象です。
このようなデジタル技術による華美で無限なイメージ世界を構築する創作に慣れると、ユルズマンのようなアナログ技法による白黒作品はあまりに古めかしく刺激に乏しいと感じるかもしれません。
そう感じる点は、その人の嗜好や世代差にも原因があるでしょうが、たとえば、次に掲げる2種類の詩、訳し方が違うだけで同じ原詩なのですが、どちらをより好むかということではないでしょうか、いい悪いではなくて・・。