見出し画像

NHKドラマ:サスペンス&ミステリー 2015 ~

前回、ミステリーとサスペンスの違いを、こうまとめました;

ミステリー:謎解きの過程に焦点を当てた作品(犯人探し中心)

サスペンス:恐怖や不安に焦点を当てた作品(犯人のアリバイ崩し中心)

ただ実際の番組では、サスペンス&ミステリー両方の要素ありというドラマが多いと思います。

また、お気に入りドラマを選ぶ基準を以下のように4つ決めました;

・サスペンスかミステリーいずれかのドラマ

・2010年以降に作られた連続ドラマに限定

・医療系・法医学系ドラマは避ける

・NHK、民放と分けて選ぶ


それで今回は、良質の作品が多い、

NHKドラマより2015年以降の作品を選びました。

~ 元秘密工作員 ~
2015年 アイアン・グランマ
脚本 : 飯田譲治

政府系の秘密組織で破壊工作活動を行ってきた引退スパイを大竹しのぶ室井滋が演じるという奇抜な設定でアクションは全く期待していなかったのですが、冒頭のアクション映画のような激しいシーンに、お二人のおばさまが見事な身のこなしで演じ切っていたのに驚き、毎回とても楽しめました。

国家危機的な陰謀事件に遭遇して再活動するお二人のおばさま中心に、テンポ、筋書き、配役、カメラワーク、音楽などすべてが絶妙に絡み合って最後までスリリングな緊張と愉快さで見飽きません。パート2まで制作されたのはうれしい限りで、見る側にとっても幸福なことです。

~ 料理人 ~
2016年 鴨川食堂
原作 :  柏井壽    脚本 : 池端俊策 他、

これは、サスペンスではありませんが、ミステリー的要素のある人間ドラマとして挙げました。「思い出の食、捜します」という一行広告を頼りに訪れる依頼者たちの悩みに忽那汐里演じる娘がじっくり耳を傾け、萩原健一演じる元刑事で京料理人の父が、その食のルーツを探し求めて「思い出の味」を再現して依頼人に試食してもらう、・・という物語です。

依頼人たちの語る思い出の味に隠された人生の喜怒哀楽がしみじみと浮き彫りにされる筋書きで、全8話、どれも珠玉の佳作で、萩原と忽那の持ち味が最高に活かされています。


~ 探偵 ~
シリーズ横溝正史短編集 2016-2022 9話
原作:横溝正史  脚本:宇野丈良 他

「貸しボート13号」と「華やかな野獣」など、わずか30分の放映時間なのに、小道具・大道具に凝った濃密かつ緻密な画面構成、大胆なカメラワークによる斬新な映像、絶妙のタイミングでかぶさる音楽、そして小気味よい演出によって、今まであまり味わったことのない映画体験をしたように感じました。主演・池松壮亮の捉えどころのない変な妙技にも翻弄されます。


~ 容疑者 ~
2016年:逃げる女
脚本:鎌田敏夫

冤罪で刑務所に入っていた女性が、当時の知人たちを訪ね回る中で危険な匂いの女と遭遇し、いつのまにか刑事に追われる逃避行を続けてゆく、・・という物語です。サスペンスとミステリー両方の要素がありますが、内容は人間の心の闇を覗くようなシリアスドラマです。

放送当時の視聴率は2%台でしたが、ネット上では高評価の記事が散見され、とりわけ、奇異なキャラクターを演じた女優・仲里依紗の強烈な存在感に触れたコメントが多いです。私も、その無軌道な暴力性と無教育の幼児性のあいだを激しく揺れ動く「狼少女」のような彼女の言動に振り回されました。もちろん、そんな彼女をしっかり受け止める演技の女優・水野美紀の存在も大きいのです。


~ 刑事 ~
2019年:サギデカ
作:安達 奈緒子

私の見た限りでは、刑事ものは2019年放送の「サギデカ」しか思いつきませんでした。木村文乃演じる女刑事が振り込め詐欺グループを追い詰めてゆく内容で、サスペンス・ミステリーありです。詐欺グループの描き方がリアルで、起伏のある筋立てと複雑な人物設定、適材適所の配役で、とてもスリリングで面白かったです。


~ 大学教授 ~
2019年:ミス・ジコチョー
天才・天ノ教授の調査ファイル
脚本:八津弘幸、徳尾浩司、吉田真侑子

これは、松雪泰子演じる、「失敗学」の権威で変わり者の天才工学者が、さまざまな事故の調査依頼を受けて真相を究明していく物語です。関係者たちのさまざまな思惑や悩みが重なり、笑いとユーモアも混ぜながら、事故の真の原因とその背後にある社会問題にまで切り込んでゆく姿には感動します。

刑事でも保険調査員でもありませんが、サスペンス・ミステリーの要素十分ありで、小道具・大道具の仕掛けもかなり手間隙とお金をかけています。女優・松雪泰子の新境地であり、母親役の余貴美子との掛け合いも見事!



~ 本屋店員 ~
2020年:ハムラアキラ
世界で最も不運な探偵
原作:若竹七海 脚本:黒沢久子

34歳の独身女性である葉村晶(はむらあきら)は、訳ありの転職、転居十数回を重ね、今はミステリー専門書店のバイトに就き、書店オーナーが冗談で始めた探偵社の調査員としても働くこととなり、奇妙な事件に巻き込まれてゆく・・という設定の物語で、サスペンス・ミステリーありです。

ドラマは、小さな万華鏡を通して、まことに不思議な静けさに満ちた狂騒劇を覗いているような印象です。NHKのHPで、原作者や制作者の方々のコメントを読むと、この作品の背景や思い入れに納得し、彼らが描きたかった世界観が見事に映像化されていたと思います。

そして何よりも、このドラマの最大の収穫は、シシドカフカという媒体がハムラを演じたことで、今まで見たことのないような新しい女探偵像が誕生したことです。


~ 探偵 ~
2020年:天使にリクエストを
人生最後の願い
脚本:大森寿美男

元刑事の探偵、パートの女性助手、男性看護師、そしてスポンサーである謎の女性。この4人が組んで、さまざまな依頼者の「最期の願い」に応えるべくワゴン車に乗って東奔西走することで、自分自身の心の奥にも向き合うこととなる、・・というロードムービー的な物語で、ミステリー要素のある人間ドラマです。

筋立てがユニーク、主要人物4人の個性も抜群のハーモニー、人生の哀歓も漂わせながら最後は明日に向けてさわやかな歌声が響いてゆく、という「救済」がちゃんと用意されていても、取ってつけたような印象を与えず、むしろ、共感度が高いです。それは、脚本と演出のおかげだけでなく、江口洋介はじめ主要キャスト4人の持ち味のおかげでもあるのです。


~ 漫画家 ~
2020-2022 岸辺露伴は動かない 8話
原作:荒木飛呂彦  脚本:小林靖子

高橋一生演じる漫画家の岸辺露伴は、相手の顔を本にして生い立ちや秘密を読み取り、指示を書き込むこともできる特殊能力を使って、遭遇する奇妙な事件の解決に挑む・・という物語で、ミステリー仕立ての完全なるファンタジーですが、今まで味わったことのない奇抜な発想の面白さがあります。

出版社担当・飯豊まりえが、意匠を凝らしたファションと無邪気な無謀さの絶妙なバランスで、「向こうの世界」へ浸り込む主人公を現実に引き戻してくれます。


最後に

こうして3回にわたり、海外・日本のTVドラマ選を行いましたが、当然ながら「自分の嗜好品」ばかりを選んでしまいました。ここに挙げたドラマよりも遥かに人気があり、視聴率も高いドラマがまだ多くあったことでしょう。

私がドラマを選ぶ注目点は、何よりもまず、主人公に人間的な魅力があるか=演じる俳優に魅力があるか、ドラマ設定に興味が持てるか=今の時代につながるか、映像と音楽に凝ったセンスがあるかであり、次に脚本、という順番です。

また、選んだドラマすべてに共通しているのは、「人間を描いた人生ドラマ」であり、主人公たちは個人的能力や特性を活かして「謎解き・犯人探し」に執念を燃やす生身の人間である、ということです。