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兄妹ゲンカ。〜木枯らしに吹かれて〜


「...寒っ!」


高校からの帰り道、
曇だらけでモヤっとする秋の空。

この前まで暑かったクセして
急に冷たい風が吹くようになった。

今日はバイトが休みの日だから
さっさと家に帰って寝てしまいたい、でも

こんな日に限って帰りづらい理由があって
俺の心の中もこの空みたいにモヤついている。
そして


そのモヤモヤの元凶と
ちょうど今 鉢合わせしてしまったところだ。



そいつとは、今日の朝飯の時
ホントにたわいもない事でケンカになった。
お互い絶賛反抗期だから
健全っちゃ健全だけど...

一応兄貴の俺の方から折れてやるしかないか。

俺「おう、帰りか?」

そいつ「...。」

俺「お前、今日吹奏楽部のリハで帰り遅いって
  言ってなかったか?」

そいつ「...。」


完全に無視かよ
「話しかけるな」オーラが半端ない。

俺「そういやさ、今日寒くねぇか?昨日なんか
  半袖でちょうど良かったくらいなのにさ。」         

そいつ「...。」


カチカチカチとスマホを叩く音が強くなってる
めちゃくちゃイラついてやがる。

俺「まだ今朝の事引きずってんの?
  「飯食った後にプリン食ったら太るぞ」
  つったの。」

妹「!?」

そいつの目つきが変わった。
殺気を帯びたような目で俺を睨む。

俺「ジョークだろ、いちいち根に持つ事かよ。」  

妹「ったり前だろうが!どこまでデリカシー
  無いんだよお前!?マジうざい!!」


...完全にブチ切れられた
こうなるともう止められなくなる そして
畳み掛けるように必殺の一撃を打ってきた。


「断言してやる、オマエ絶対カノジョ出来ないから!!」

...ふざけんなよ、言っていい事と悪い事の
分別も付かないのかよ。

俺もキレかけて言い返してやろうと思った
その時


突然目の前を木の葉が舞って

強くて冷たい北風が吹いた。



「寒っ!!」

突然妹が
そう叫んで俺の腕に強くしがみついて来た。

...おい、マジか。
今までの強気、どこ行った?

「今俺に「絶対にカノジョ出来ない」って言ったばっかだよな?
今のお前ってさ...」

得意げに話しかけた俺の言葉に
我に帰ったのか、妹は慌てて離れた。

「今のノーカン、ノーカン!バカじゃん!?
な、なんだよそのドヤ顔くっそムカつく!!」

少し...いや、かなり頬を赤らめて
左手のスマホを振り回して全否定する。

俺も一息いれて 妹に謝ってみる。
「悪かったよ、からかってさ。もう許してくれよ。」

「...うん。」
あからさまに不本意で悔しそうな顔をしてるが
軽く頷いてくれた。

実は、俺もちょっと悔しかった。
小さな体でしがみついてきた妹の手は
ちょっとだけあったかくて
寒がる顔も、からかわれて焦る顔にも
ドキッとさせられちまった。

俺も大概な見栄っ張りだから認めたくないけど...

「一緒に家に帰るか。」

今日のケンカは
木枯らしに両成敗されたってところかな。


それにしても

コイツ 去年までこんなに寒がってたかな...



妹「コンビニで肉まん二つおごってよ。
  慰謝料♪当然だよね。」

俺「財布に小銭ねぇわ、一個にまけてくれよ。
  それに二個も食ったら太る...あ」

妹「全然反省してないじゃん、
  そして甲斐性無しクソ兄貴!
  やっぱカノジョ出来ないわ!!」


...まだ 終わりそうにねぇや。







これは、ある夏に
妹と最期に観た花火大会の
一年前の秋、
ごくありふれた日常のエピソード。


秋の散歩道で

俺はカミさんに
ふと、この時の話をしたら
「良かったよね、妹さんからデリカシーの無さを
責められて。」と
苦笑いされた 目は笑ってないが。
まだ小さい娘からも
「パパ、ダメおとこ。」と言われる始末。
息子の方は良く分かってないみたいだ。
俺に似たのか...

一緒に苦笑いするしかない俺を
空の上の妹がほくそ笑むように

雲の隙間から
かすかな日差しが差し込む秋の空。



※この創作はフィクションです。




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