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打ち上げ花火。路上から見るか、畑から見るか。

「花火見たいから連れてけ。」

妹が唐突に俺に吹っかけてきた。

俺の住んでる街では、7月になんだかよくわからん理由で打ち上げ花火大会がある。
一般的な花火大会シーズンよっかは少し早い。

「俺今日バイトのシフト入ってんだよ。
急に言われても困るんだよ。
それにお前さ・・・」
そう言いかけたところで

「黙れ!絶対行く!黙って連れてけバカ!!」

外っ面は明るくて、人当たりも面倒見も良い
よく出来た妹。のはずが
その反動が俺に跳ね返ってくる。
くっそ生意気でいつも小馬鹿にしやがる、
俺の物言いが気に食わないと
「うぜぇ。」の一点張り。
いい迷惑だ。

そんな妹のいつものワガママと流そうとしたが
気のせいか、眼が少しだけ潤んでいる様に見えて
・・・

「分かったよ、バイトはなんとかすっから。
今回だけな。」

俺はバイト先に電話をかけたが
忙しいのか繋がらないので、同僚にメールだけ入れた。多分クビだろうな。

2時間程待たされただろうか・・・

花火大会の時間が近づいてきた。
「おい、そろそろ出るぞ。」
妹を連れ出そうとすると、
今度は

「やっぱ無理!無理!!」
と嘆く。

こっちはバイトまで蹴って時間作ってやったのにまたワガママかよ。
ふざけんな!
正直そう思ったけど・・・

「なあ、行こうぜ、花火。
ビビるなよ、後悔したくねぇだろ。」
ムカついてた感情を抑えて妹をなだめる。
散々振り回されても一応は妹だから。

どこか踏ん切りの付かない妹を
半ば強引に引っ張り出して俺の車に乗せる。


それが一生償えない大きな代償を払う事になると解ってても・・・


車の中で妹は震えている。
花火会場まで急ぐ。

駐車場の看板が見えた。しかし・・・

駐車場は満車、止められない。

「こんな時にふざけんな!!」

慌てて迂回路、花火がはっきり見える農道へ。

路上に違法駐車してる輩でごった返してやがる。
交通整備の人まで出て来て、次々押し寄せてくる車の波が途切れない。

「こいつら絶対許せねぇ!!」
俺は正気を半ば失ってた。

妹の顔が、みるみる青ざめている。

見るに耐えられなくなった俺は言った。
「仕方ねぇからここでいいか?
結構はっきり見えるだろ?」

すかさず妹は俺も驚くような声で叫んだ。

「イヤだ!!」

その叫びで、焦りまくっていた俺の記憶に
突然火が灯る。

今はもう居ない親父が、俺達がガキだった頃に
花火を見に連れてかれた穴場。
親父の呑み仲間だったオッサンの農家の畑。
親父はオッサンと呑みたかっただけなのか
俺達共々そのまま農家に一泊した。

あの場所しかありえねぇ!

かすかな記憶を頼りに畑へ走る。

花火大会はもう始まっている、
メインの打ち上げ花火ラッシュはまだだ。でも・・・
見つからねぇんだ、あの畑が。
思い出せ、思い出してくれよ俺のポンコツ頭!

見せてやりてぇんだ、妹に
多分特別な思い出になる花火を。

花火の勢いが強くなってきた。ラッシュが始まっちまう。
俺は普段神様とか信じちゃいないけど
俺の一生一度の願いなんて永久に無視してくれていい。
妹の願いを・・・願いを・・・

半ば錯乱状態でどこを走ってるのかすら
分からなくなっちまった。
サイロの立ってる方向へ左折した時
目の前にまた誘導員みたいな奴が出て来た。

邪魔だ!
ウィンドウを開けて「通して下さい!」と叫ぼうとした瞬間、
「よくここに来れたな。左の納屋がある所に入れ、花火ラッシュがキレイに観れるぞ。」

よく見たら誘導員じゃなくて
つなぎを着たガタイのいい中年男性。
そうだ、あの親父の呑み仲間のオッサンだ。

もしかして俺達、あの畑に着いたのか?

オッサンが俺達の事を覚えてて
畑に入れてくれたかは分からない。
話をする余裕なんて無く
会釈だけして
オッサンの好意に甘えさせてもらった。
偶然にしてもバカみたいに出来過ぎだ。

後になって思い返したら、あのサイロ、
親父が農家に行く為の目印にしてた様な記憶が・・・

天国の親父が連れてきてくれたんだ。
そう思うことにした。


「着いたぞ。」
助手席の方に目を向けようとした時、

「見ないで・・・。」

それは、俺の知ってる強気でワガママな妹の声じゃ無かった。
余りにも弱々しく、まともに聞こえない程
小さい。
それでも
命を削るように妹は声を絞り出す。

「約束・・・したでしょ。また花火見に行こうって。」

俺はバカだ。
ガキの頃、親父が早死して
自暴自棄になったおふくろの代わりに家事やバイトに明け暮れた俺はいつの間にか

妹との約束を忘れてたんだ。

こいつは、俺が想像出来ない位
激しく辛い
痛みのなかでも

ずっと約束を覚えていたんだ。

今年は、俺が自分の車を買ってから
最初の花火大会。
妹と花火を見るチャンスは、今日しか無かったんだ。

「やっぱ・・・キレイだね、花火。」

運転席から見える花火は確かに綺麗だ。でも俺には
ウィンドウに反射して映る妹の悲壮な姿も重なって

別れを告げる光に見えた。
「こんな光なんて見たくない。」
弱い自分が拒む。
その時・・・

妹が俺の左手を握った。
小さくて震えてて、冷たい手。
でも、想いが痛い程伝わってくる手。

後悔だけは絶対したくない。
俺も右手で妹の手を被せる様に握った。
目に焼き付けよう。目の前に輝く光の華を。
何があっても絶対に忘れない様に・・・

あれからどれだけ月日が経っただろう。
街は人口が減ってしまい、祭りも縮小されている。
それでも、花火大会だけは続いている。
俺は、毎年決まってあの畑に行く。
そして、嫁さんと二人の子供と
一緒に打ち上げ花火を見ている。

無邪気に楽しむ子供達には内緒にしているけど、  


妹と最期に観た、打ち上げ花火。
七夕じゃねぇけど
ワガママで生意気で
それでも俺を大切に想ってくれたお前と
一年に一回だけ会える日だから。



☀この記事はクロサキナオさんの企画参加記事です☀
#クロサキナオの2024SummerBash
https://note.com/kurosakina0/n/nca6ac9a35baa

※7/13 夕方に一部表現を修正しております。 


あとがき

クロサキナオさん主催のイベント初参加用に
普段書かない創作(フィクション)を作成してみました。
皆さんアゲアゲで来るのかな?というトコロに
あえて切ない系で挑戦します。
「本気」と書いて「マジ」のチャレンジです。

「じゃあタイトル名どうなってんだよ!」
と思われた方。

・・・書いたのが夜中だからさ。

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