つかれた体に効きます
彼は、私の城たる『うみそら整体院』の客にしてはやけに若かった。
「あの、すんません。予約してないんですけど」
自信なさげに話すのは、齢16ほどの少年。およそ整体を受けるような歳ではないだろう。だが背中を丸めたその姿は、なるほど確かに私の施術を受けるに値していた。
「大丈夫ですよ。本日はどうしました」
「なんか、ずっと疲れが取れなくて……腰も肩も痛いっていうか……」
喋るのも億劫なのか、やけに歯切れが悪い。
「あー、はいはい。これは確かにつかれているようで」
「わかります?」
「見ただけでわかりますよ。さ、早速施術台へ。横になって下さい」
少年を施術台へうつ伏せにさせる。私は自らの両指をゴキゴキ鳴らし、敵を迎える準備を始めた。
「始めますよ」
まずは指圧。肩甲骨の内側を親指で押す。それを徐々にずらし、次は背骨に沿って筋肉をほぐす。
ゴリゴリとした感触。じっくりと体重をかけて指圧する。
やがて指の感触と長年の勘を頼りに”核”を探すと、
「ぬんっ!」
ぐいっと押した。
その刺激により、ぐにゃり、と少年の背中から影が浮かび上がる。
人面瘡。
人の顔を模したそれは、少年の背中一面を支配するかのように大きかった。
「やっぱり憑かれてますね」
「疲れてます?」
「ええ、それはもう」
言いながら指圧を続ける。
背骨から下へ下へと圧をかけ、続いて腰。両手で腰を包むようにして、腰回りの筋肉を押す。同時に、私の両指に刻まれた般若心経が少年の体へ浸透する。
一子相伝の霊媒指圧。
死霊に憑かれて疲れた体を突く。
「この店、怪しい霊感商法するって噂ですけど。案外普通なんですね」
「ははは、そうでしょう」
言いながら更に親指でツボを突く。
『待って、待ってくれ』
すると指圧に耐えかねてか、人面瘡が喋りかけてきた。
「何だ、うるさいぞ。お前はもう死んでいるんだ」
『あんたは騙されている。この体の本当の持ち主は僕だぞ』
「何?」
【続く】