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メモリー・ウォーズ

 ドスドスと腹に響く足音。
 音の主は、取り逃がした獲物……つまり俺の姿を探しているようだ。

 相棒のミハエルは、さっき奴に記憶を根こそぎ喰われてしまった。仕事が終わったら彼と酒を酌み交わす約束をしたが、それは二度と果たせまい。
 俺は埃っぽいベッドの陰に身を隠し、懐をまさぐる。取り出した記憶コンデンサに貼られたラベルを一瞥して、舌打ち。

「チッ。メモリーバンクの奴ら、弾をケチったな」

 ラベルに印された記号は、色褪せた【C】。たかだかC級市民の、それも摩り切れた思い出に込められた情報量なぞたかが知れている。雑魚が相手ならともかく、奴には効かないだろう。

 その時、ふと視線を感じて頭上を見遣る。

 奴と目が合った。

 等身大のタツノオトシゴに手足が生えたような、醜悪な体躯。そいつは一声唸ると、天井から襲いかかってきた。
 俺は咄嗟に横へ跳躍。それと同時に、記憶コンデンサをセットした光線銃の引き金を引く。だが放たれた光線は奴の表皮から吸収されてしまった。
 威力が足りない。
 この瞬間、俺は覚悟を決めた。

「……やるしか無いか」

 俺は空の記憶コンデンサを取り出し、その端子を自らの頭に躊躇無く突き立てた。

「あばよ、相棒」

 端子から、ミハエルとの楽しかった日々の記憶が吸い出されてコンデンサに貯まる。そして、俺が何を忘れたのかすら忘れてしまった頃には、コンデンサが眩い光を発していた。

 高濃度の記憶。ご馳走の気配を感じてか、奴が一気に突進して来る。

 俺は黙ってコンデンサをセットし、引き金を引いた。

◆ ◇ ◆

「駆除、ご苦労様。色々大変だったようだな」

 メモリーバンクの重役は、俺の頭に空いた刺し傷を一瞥してため息を吐く。何があったのか察したようだ。

「今の君にこんな事言うのは心苦しいがね、君にはまた新しい相棒と組んで貰う」

 そう言って端末に表示された新たな相棒の姿に、思わず俺は瞬きをした。

「……猫?」

【続く】























 




 




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