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ウィンチェスターという最弱ロマン武器で、最強に戦いを挑んだ話(1/2)

■弱くてもロマンがあるだけで楽しかった 

 ゲームをプレイしているとロマン癖を発症する。
 誰も見向きもしない職業や武器があると使いたくなってしまう病だ。
 どの界隈にも一定数ロマン癖の人間がいると思うが、この症状に陥った人間はゲームをプレイし続ける限り、ロマンを目の前にすると発作を起こしてしまう。僕はというと中学生の頃、このロマン癖を発症した。
 紙業FPSペーパーマンで出会った"ウィンチェスター使い"に憧れてだ。

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 ショットガンに求められるのは一撃必殺の高火力と、マップ上における狭い通路や屋内戦での制圧力。ペーパーマンではアサルターやスナイパーと肩を並べられるほど、ショットガンナーもしっかりと地位を確立していた。

 そんな数あるショットガン達の中で、ひときわ異彩を放つ存在だったのが、このウィンチェスターという武器だった──。
 
 ウィンチェスターを一言で表すと、戦力にならない三流ロマン武器。
 
威力はショットガンの中でも最底辺。散弾数も連射速度もワーストクラス。集弾率がよく中距離でも戦えるという特徴もあったが、そもそもショットガンという近距離武器のコンセプトからはズレているので中途半端。
 そんなウィンチェスター最大の魅力は"リロードのカッコ良さ"だった。

 ショットガンといえば、弾を撃った後に一回一回ガシャコン!と弾を再装填してドン!と撃つ。連射式以外の多くのショットガンはそういう構造になっているが、ウィンチェスターは中でも特異なリロードをする。

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『ターミネーター2 ハーレーvsトラック カーチェイスシーン』

 一番有名なのはおそらく「ターミネーター2」──。
 アーノルド・シュワルツェネッガー演じる「T-800」がハーレーダビッドソンを乗り回しながら、ウィンチェスターを片手に敵とカーチェイスを繰り広げるシーンで、バイクの運転をしながら弾丸をブッぱなし、片手で銃をくるりと回転させてリロードするという、全世界の男たちのハートを鷲掴みにしたレバーアクション。あのカッコいいやつが、このゲームにおけるウィンチェスターのリロードにも踏襲されていた。

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 ペーパーマンはAIM制御ガバガバの基本フルオートゲー(プレイ当時)だったので、プレイヤーは横移動したりジャンプしたりと弾幕を避ける動きをしながら撃ち合うのが主で、ウィンチェスターは武器の重さが比較的に軽く、他のショットガンよりも少しだけ移動速度が速いという利点があった為、ヘッドショットを受ける位置をズラしながら跳んで撃つ戦法がよく使われた。

 跳びながらズドンと撃ってはくるりとリロードするリズミカルな動きがクセになる使っていて楽しい武器で、その虜になったプレイヤー達はみんなこぞってウィンチェスター使いを目指した。

 ゲーム内ではよく「ローカルルール部屋」というのが建てられ、例えば「ナイフファイト限定部屋!」といった感じで特定の武器だけで戦う遊びが流行っていた。その中には"ウィンチェスター使い限定部屋"なんかもあったりした。ウィンチェスター使い達は武器だけでなく、同好の士に対する仲間意識も強く、ほぼほぼ界隈と化していたプレイヤー達だけで、ウィンチェスター最強決定戦なるローカル大会も開いていた程に盛り上がっていた。

 
自分もよくクラン活動以外では、ウィンチェスターの集まりで遊んでいた。同志とチャット部屋で楽しんでいたところを母親に見られ「ゲームしながらニヤニヤして……気持ち悪い……」と言われたりもした。世間一般では「所詮はロマン武器」などと揶揄されていたが、戦場を自慢の足で駆け回りヘッドショットを量産する姿は、他の武器には絶対にないオンリーワンの輝きを放っていた。こうして僕は無事、ロマン癖を発症することになったのだが、相棒のウィンチェスターと同志達に囲まれゲームを満喫していた。

 そんな充実した日常に突如、海の向こうから一隻の黒船が襲来する────。


■全ての武器を産廃にした悪魔の銃"K7"

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 ある日、新規アップデートにより新しい武器が追加された。
 サブマシンガンの種類に属する「K7」という武器だ。
 サブマシンガンといえば、武器の重量が軽く、アサルトライフルやショットガンに比べたら一発一発のダメージは劣るものの、集弾率や弾速が優秀で誰にでも扱いやすいのが特徴だ。K7もそのはずだった。

 K7実装から間もなく──全ての武器がK7の下位互換と化した。

 
当時の状況はもはや世紀末というか、運営側とユーザー側による戦争状態に近い状況だったのを覚えている。
 ゲーム内のパワーバランスは崩壊し、ゲーム内チャットは阿鼻叫喚、公式ホームページのスレッドでは連日"K7に対する抗議の書き込み"で埋め尽くされ、試合ではK7を使わない者に人権など無い世界へと変貌していた。

 簡単に当時のK7のスペックを書き記そう。

 威力はどんなアサルトライフルよりも強く、集団率はどんなショットガンにも劣らず、弾の速さはどのサブマシンガンよりも優秀、レティクルはどれだけ連射しようと広がらず、遠距離戦でもスナイパーライフルに引けを取らない、考えうる全てのスペックを兼ね備えた、まさに悪魔の銃だった。

 武器にはそれぞれ性能を示す"パラメータ"のようなものが設定されていたが、実際のパラメータ表記とは明らかに性能の逸脱した"ぶっ壊れ"が実装されており、実装から数日はユーザーの間でも運営の設定ミスという認識で「なーんだいつものダメポか(開発元の会社名Gamepotをもじって呼んだ)」と楽観的な態度で、すぐに修正されるだろうと思い込んでいた。

 が、そんなユーザーの思惑とは裏腹に、K7の正式な下方修正が為されるのは数ヶ月先のこととなる。

 その間ゲーム内の状況はというと、どの試合でもK7で溢れ、K7の音を聞いただけで試合から途中退出する者、K7を使用して無双するプレイヤーを非難しようとチャットファイトを仕掛ける者、K7禁止のローカル部屋にK7で乱入して荒らす者等々……実装前の穏やかな雰囲気からは一変して瓦解。

 どこへいっても荒廃した世界に対して、運営が取った行動は「沈黙」。
 誰の目に見ても明らかな設定ミスであるにも関わらず、運営側からの続報は待てど暮らせど訪れない。ユーザーの不満は限界を迎えていた。

 余談だが、このK7は実在する韓国製の短機関銃がモデルで、ユーザーの間では開発元が韓国の会社であることから「韓国補正」が入った性能という認識が広がり、K7はいつの頃からか”キムチ”という名で呼ばれ、またキムチ(K7)を使用するプレイヤーは”キムチャー”の俗称で忌み嫌われていた。
 (バグ修正やメンテ時間延長をする運営に対しては、運営をおろそかにして"キムチパーティー"をしているなんて用語も流行った)

 一方その頃、平和なウィンチェスター界隈にも陰りが見え始めていた。

 元々性能ではどの武器にも遅れをとるロマン武器、ウィンチェスター。
けれど使い手次第では一線級の武器とも渡り合える力を秘めている。それこそがウィンチェスター使いのアイデンティティだった。しかし、今回襲来したキムチは一味も二味も違う。天と地の差の性能で薙ぎ倒され、まるで勝負にならない。世はキムチをキムチで洗う混沌の時代──所詮ロマン武器のウィンチェスター使いに居場所などあるはずもなく、引退者が続出する事態にまで陥っていた。

 長くなりそうなので一旦締め。後編へ続く。

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