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ウィンチェスターという最弱ロマン武器で、最強に戦いを挑んだ話(2/2)

★前編のあらすじ・・・韓国からやってきた悪魔の銃「K7(キムチセブン)」の登場によって、平和だったパピルス王国は崩壊の一途を辿り、ユーザー同士による戦いは激化。もはや開戦の理由など誰も知らないキムチ戦争を数ヶ月も続けていた。テリシアの好きな食べ物は子持ちのししゃも~♪

■胸が痛むほど、暗い感情が渦巻いていた

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 K7の圧倒的な性能差によってパワーバランスの崩壊したゲームを喜んでプレイする者などもはや少数だった。残されたプレイヤー達はいつの日かこのキムチ騒動が収まることを、また以前のような楽しい日々に戻れることを願いながらプレイしていた。そんな淡い期待も虚しく、戦場に響く悪魔の声はペーパーマン達の心をへし折っていく。

 この時期のメインコンテンツの一つ、CW(クラン戦)の状況はというと、もちろんK7とそれ以外の愉快な銃たちといった調子で、もはやK7を持たないプレイヤーは格好の餌でしかなかった。
 
 自分が所属していたクランは中級者そこそこの平凡なクランで、勝利に貪欲というよりかはエンジョイして楽しくプレイができれば満足という志向の方が強く、メンバー達もそれぞれ自分の好きな銃でCWに挑んでいた。
 元々がカジュアル志向の強いタイトルだったので、自分達のようなエンジョイクランの方が圧倒的に多く、コンセプトを決め個性を出して遊ぶクランがたくさん存在した。(うちの場合は不人気の犬キャラオンリークラン)。
 そんな、エンジョイ勢の戦場にもK7の魔の手が伸びる。

 いつものようにクラン戦へと挑んだある日、今までに経験がないほどの大敗を喫した試合があった。対戦相手がK7オンリーのクランだったのだ。
 そしてたちが悪いことに、対戦相手からめちゃくちゃに煽られクラン内は意気消沈。CWはしばらくやりたくないと悲しみに暮れるメンバーもいた。

 このK7騒動で問題になっていたのは武器の壊れた性能だけではない。
 ユーザー間による論争が色んなところで巻き起こっていたことも、一つの問題として浮上していた。

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 ペーパーマンの各サーバーにはロビーチャットがあり、普段はクランへの勧誘や他愛のない雑談、たまに中二病のガイと初期アバターのハヤテが暴れていたものの、基本的には穏やかな雰囲気の活気づいた交友の場だった。

 が、この時期のロビーチャットは、荒れない日が無いほどに混沌としていた。K7の台頭によって、いつからか「アンチK7」が誕生していたのだ。

 壊れた性能への不満をロビーで爆発させるプレイヤーがぽつぽつと現れ始め、果てはK7を使用するプレイヤーへの攻撃にまで発展することもあり、それに憤慨した人が反論を重ねロビーは地獄の業火に包まれていく。

 そんなペーパーマン達の暗い感情によって生まれたのが、あの”K7を使って対戦相手を煽り倒す”ダークペーパーマン達のクランだったのだ。

  断っておかなければならないのは、K7という武器を使うことは決して"悪"ではない。"K7"を使うプレイヤー達も悪ではない。この明らかなパラメータの設定ミスを、いつまで経っても下方修正しない運営の対応こそが間違いなのだ。

 いろいろな軋轢によって殺伐とした雰囲気が漂うことになってしまったペーパーマンの世界。当時の僕にとって、ペーパーマンというゲームは初めて熱中したFPSだったし、顔は見えずとも人との繋がりが確かにあると感じることのできるオンラインゲームは初体験だったので、今回のようなどこか捻じれたプレイヤー間での衝突が起きていることが、すごく悲しかった。

 そんな風なことを当時、ウィンチェスターの同志に打ち明けた。
 あの小さな出来事が始まったのはそれからだった。


■ペーパーマンとロマン武器を愛した者達の戦い

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 細々と活動していたウィンチェスター使いの集まりにて、「最近のペーパーマンはプレイしていて全然楽しくない……この前本クランの方で当たったK7の集団にもめちゃくちゃにやられた、今の環境でゲームを続けていくのは無理だ……」と、そんなことをメンバーに打ち明けた。

 実際ウィンチェスター界隈でも人が減り始めており、ペーパーマンは引退しないものの、K7の下方修正が為されるまでの間、別のゲームに移動するという人がちらほらいた。僕自身も一日一回は必ず目撃するK7を巡っての争いに辟易していたし、活動休止を申し出るつもりで先のようなことを話した。
 そんな落ち込んでいた自分のことを見兼ねて、ウィンチェスター使いの集まりを主催していたリーダーが、こんな提案を持ち掛けてきた。

 「そのK7クランに戦争を仕掛けよう!」

 元々お祭り好きのリーダー。ウィンチェスター限定大会などのイベントを主催していたのもこの人で、何かとみんなで盛り上がる行事をすることが好きな人物だった。ウィンチェスター愛も強く、K7実装後もめげずにロマンを追い求めていた。思わぬ形で訪れた転機に、僕の胸も久々に高鳴る。

 それからすぐに即席のウィンチェスターオンリークランを結成。
 打倒K7を掲げるには相応の準備をしなくてはならないということで、実力向上のため毎日のトレーニングに励むことに。
 ウィンチェスターの扱いが一番上手かったリーダー指導の下、みんなで撃ち方の座学をしたり、「ウィンチェスター使いが相手だ!」という名前の部屋を立てて、野良のプレイヤー相手に爆破MAPの実践練習を積んだり。

 あまりにもメンバー全員が本気で練習に励んでいたので、自分も途中から変なスイッチが入ってしまい、K7クランの前に散っていった人達のために一矢報いるんだ!と、ウィンチェスターが上手くなることだけに全ての時間を費やした。見失っていたペーパーマンへの熱が再燃し始めていた。

 連日連夜のように、ウィンチェスター使い達が迎え撃つ奇怪な部屋が立っていたので、野良の中にはおもしろがって毎日遊びに来てくれる"固定"のような人まで現れ始め、小さな活気を見せていた。

 こういうネタ部屋を立てると、「また明日もやりますか?」と聞いて、次の日には自分もウィンチェスターを担いで参加してくれるような、とてもノリの良いプレイヤーがペーパーマンというゲームにはたくさんいた。

 こうして短期間ではあるものの、ウィンチェスタークラン一丸となって練習に取り組み、事の経緯を聞いて応援してくれた心優しいペーパーマン達に送り出され、いよいよK7クランとの決戦の日を迎えることとなる。




 ────結果は惨敗。ウィンチェスタークランは勝負に負けたのだった。

 クランとしてはいい場面もあったかもしれない、けれど自分が覚えている限りでは、当日すごく緊張してまるでクランに貢献できなかったことだけは鮮明に記憶している。ペーパーマンというゲームを始めてから一番本気で取り組んだつもりだったが、K7に圧倒されまるで歯が立たなかった。

 負けた悔しさよりも、みんなに申し訳ない気持ちで一杯になり、泣いた。
 
 それから数日の間は、どうしてもゲームを起動することができなかった。
 
 

■思いもよらぬ出来事が待っていた
  

 数日経っても相変わらず先日のショックを引きずり、かといって他に没頭できるゲームをすぐに見つけられるわけでもなく、ネトゲのフレンドはペーパーマンにしかいなかったので、結局ふらふらとログインすることに。

 久しぶりにログインすると妙なことに、ウィンチェスタークランのIN率が異常に高かった。それどころか、以前よりもメンバーが増えている。

 何があったのか聞いてみると、K7クランに対抗する為に期間限定で建てたウィンチェスタークランを正式に活動させていく運びになったらしい。元々いたメンバーの他に、練習のために建てていた部屋によく遊びに来てくれていた顔なじみの人たちも加入して、結構な賑わいだった。

 あの奇怪な部屋「ウィンチェスター使いが相手だ!」もクラン内で定着し、試合中にターミネーターのBGM『デデンデンデデン!』をチャットで打ちながら相手の陣地に詰め寄る、という変な文化までできていた。
 
 ロビーチャットでは相変わらずK7論争が巻き起こっていたが、そこにウィンチェスター使い達が例のBGM『デデンデンデデン!』で一斉に介入し、争いを止める遊びなんかも流行ったりした。K7によって起こる暗い感情を吹き飛ばすことが、いつしかウィンチェスタークランの使命となっていて、そこには以前よりも活気に満ちた、ロマンを追い求める同志達がいた。
 
 突如として現れた悪魔の銃によって、ペーパーマンは苦境に立たされた。

 けれど僕らウィンチェスタークランと同じく、ペーパーマンが本当に好きだからこそ、何とかして以前のような雰囲気を取り戻したいとアクションを起こすプレイヤーが各地に存在した。当時ペーパーマンMADが流行ったり、MADから波及したスネークプレイをするテリシアが増えたのも、楽しくなれるような遊びでペーパーマンを再生させたいと願うプレイヤーがたくさんいたからだと考える。(黄色いカンフースーツでTNTN言うハヤテも増えた)。

 そして、2009年8月12日──K7はこの日のアップデートを以って、正式にパラメータの下方修正が為された。長きに渡るK7戦争が終わったのだった。

 今回の僕の話はすごく局地的で、ゲーム全体の歴史でいうとほんの一文にもならないとてもマイナーな戦い。当時はこのような葛藤が色んな所で起きていて、武器の性能で対抗するのではなく、ゲームへの愛で最強の悪魔と戦うペーパーマン達が存在したに違いない。

 ふと思い出して記事にしてみたけど、今では懐かしくもあり、全てが楽しかった貴重な体験だったように感じる。

あの頃ゲームを支えたペーパーマン達は、今でも元気にしているだろうか?

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