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帰師はとどむる勿れ
とりあえず今日は、天候もやや落ち着きを取り戻してくれたようです。雨の心配をせずに帰れるのは久しぶりです。
さて、……
ウクライナに攻め込んだロシア軍であるが、未だに所期の目的を達していない。そもそも所期の目的が何だったのかも分からなくなっている中、始めてしまった以上何とか格好を付けなければならない。ただ、それも覚束なくなっている。
今回のタイトルの出典は、兵法で有名な『孫子』である。
私はこの言葉を陳舜臣さんの著作「弥縫録」で知った。読んだのが高校生の頃なので記憶がかなりあいまいだけど、こちらも書き始めてしまったのでw書いてみる。
帰師の「師」は師匠のことではなく師団、つまり軍隊のこと。この言葉の意味は簡単で「自国に帰ろうとする軍隊を押しとどめてはならない」である。
なぜ押しとどめてはならないのか。軍隊が帰るというのは、攻め込まれた側からすれば敵国の軍が自国から出ていくこと。だから放っておいてもいなくなる、という意味ではない。
故郷を思う兵の気持ちはものすごく強い。何が何でも母国に帰ろうとする。それを迎え撃つようなことをするのは苦戦の元となる。だから、押しとどめて帰国の邪魔をするような戦い方はするなと言っているのである。
もちろん、攻め込まれた側とすればやり返したい思いもあるだろう。では、どうすれば良いか。
答えは「一旦やり過ごして、後ろから追撃する」である。帰りたい気持ちを抑えて、振り返って戦おうとする意欲は低くなるからだ。
それでも振り返って戦うのは、殿(しんがり)として子孫への恩賞を約された場合か、関ヶ原で主君・島津義弘を逃がすために自発的に捨てがまり戦法で追撃してくる東軍に立ち向かった島津の退き口くらいではないか。
孫子が今でも読まれるのは、このような人間の心理を的確に突いた戦い方を教えてくれるからだろう。だからこそ実際の武力による攻撃だけではなく、経済でも十分に活用できる。
母国という言葉がある。国は自分を産んだ母であり、故郷は確実に人を惹きつける力を持っている。だから母国を守ろうとする時に、人は実力以上の力を発揮する。母国に帰ろうという気持ちも同様である。
プーチン大統領が開戦時に見誤ったものの中に、母国を守ろうというウクライナ国民の心情があったのは間違いない。ネオナチからの解放軍として歓迎されるという大いなる誤解もあったようだけど。
故に、今回の侵攻はうまくいかないだろうと思われる。
確か、弥縫録のこの項には、太平洋戦争中に流行った歌のタイトルも書かれていた。それは「誰か故郷を想わざる」であった。
お読み頂き、ありがとうございました。
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