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振り返りノート|#シロクマ文芸部

振り返る必要があるのだろうか。

『振り返りノート』はもちろん担任教諭が始めたことだ。
生徒たちは陰では文句を言っているが、実はみんな真面目にきちんと書いているのを知っている。

そういうのもウンザリだ。
みんないい子ぶってる。

「振り返りノートを提出してください」

毎週月曜日の朝、『振り返りノート』を集めるのは日直当番の仕事だ。

私は今日も提出しなかった。
一か月くらい放置している。
そもそもノートがどこにあるのかもわからなくなってしまった。
もしかしたら先週の資源ゴミ回収日に雑紙と混ざって捨ててしまったかも。

「おい、中村!また未提出か?!」
「ちゃんとわかってるんだぞ!お前が提出していないこと!」

はい、はい、怒鳴るのはもうそれくらいでいいっしょ。
赤ペンのアンタのコメントもウザいんだよ。

「先生… 何の意味があるんですか?振り返ることに」
「もう終わってしまったことに時間使いたくないです」

教室内がガヤガヤしだした。
でも誰も発言はしない。

担任は目がつりあがって鬼の形相となった。

「そ、それはな…」

あ、答えられないんだ。
しどろもどろで面白い。

「ひ、必要だからだ!」
「人として、自分の行動を振り返り、反省することが!」

「ふぅぅん」

「じゃあ、先生も『振り返りノート』書いてよ!」
「毎週、日直がチェックするよ!」

また教室内がガヤガヤしだした。
コソコソ、ひそひそ…
「そうだよね…」とたくさんの小さな声がする。

チャイムが鳴った。

「ホームルームおわりだ!」

担任は逃げるように教室を出て行った。

***

帰りのホームルームの時間、
担任が右手に一冊のノート持ち、頭上へあげた。

「俺も書くぞ!」

わぁぁ!!

教室が笑いに包まれた。
半分は小馬鹿にした笑いだろう。

当の本人は嬉しそうだ。

***

あの日の翌週から『振り返りノート』を書いて提出することにした。
相変わらず担任のコメントはウザいけど、私は振り返りたくないんだから、ちゃんと読みはしない。
無視無視!

担任の『振り返りノート』も日直当番へ渡されるようになった。

毎週、赤ペンでけちょんけちょんに書かれていることは言うまでもない。

担任はそれをみんなの前で読み上げて、
いつも楽しそうに笑っていた。

***

「振り返る」ではじまるお話です。
1作目です。
シロクマ文芸部 さんの企画に参加しました。
いつもありがとうございます。

#シロクマ文芸部
#小牧幸助さん
#note投稿企画
#振り返る
#振り返りノート


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