Toronto Working Holiday[7]~Busker~
・前回の要約
前回のことを振り返っておくと、私はトロントで出会ったスタンドアップコメディアンに感化され、路上ミュージシャン(言い方はたいそうだが、)として活動しようと決意した。トロントでは路上アーティストのことをBusker(バスカー)と呼ぶ。私はここからBuskerとして生活をしていくことになる。
・準備
さて、勝手にやっていいだろうか?日本では、路上でパフォーマンスをする際、警察署に行き「道路使用許可証」を受理してもらわなければいけない。かなり面倒なのである。しかし、ここはトロント。すでに路上パフォーマー達も何人も目にしている。
そこで、実際のBuskerに質問してみた。するとこんな答えが、"Busker lisenceを取得しなければいけない” なにやら同じように許可証が必要らしい。ただ話を聞いていくと、年間約40~50ドル(おそらく)を支払い、たいていの場合は許可されるという。トロントは路上パフォーマー達に優しい街だったのである。
そうと決まれば、、。と思ったのだが、金が必要、、。仕事をクビになり、金が必要な自分が金を払って始めるのはなかなか厳しかった。(それが、たとえ40ドルだろうと、)夏に比べて冬のBuskerは寒さの影響で少ないという。冬のBuskerは本物?のBuskerだ。という話を聞き、警備もほぼほぼないということで、ライセンスなしで始めることにした。(あの時はすみません、、。真似しないでください。)さあ、いよいよ準備は整った。
・初めての路上ライブ
では、場所はどうしよう。いや、悩むほどのことではない。ダウンタウンの中心地、Toronto Eaton Center前がこの地ではメイン会場だ。皆さんが想像できるように例えると、まさに渋谷スクランブル交差点でライブをするようなものだ。通行料は多いだろうし、皆買い物に来ているわけで客層としても申し分ない。
しかし、怖い、、。今皆さんは渋谷スクランブル交差点にいます。そして持ち物はギターのみ。あなたは、地面にお尻をつけることができますか?そう。これはやってみないとわからない恐怖。地べたに座り込むという行為は、案外大変なのである。(汚れの問題ではなく)。皆に見られている、、。どうしてもその当時の私はそれが怖かった。
そこで、知人からある話を聞いた。”チャイナタウンは週末になると路上ライブで盛り上がっているぞ”と。私は、まずは経験が必要だと思い、平日のチャイナタウンに行っていることにした。週末でなく、平日というのが当時の自分の性格をよく表しているね。
・チャイナタウンにて演奏
チャイナタウンというのはダウンタウンであるDundasから見て、北西の方角にあったように思う。ガラッと雰囲気が変わるのである。食事が口に合うため何度か訪問したことはあるが、一言でいうと治安が悪い。そんな場所で今から始めるのである。 チャイナタウンといってもそこそこ広い。メインのストリートから一本入るとそこはいよいよチャイナタウンという感じである。私はその入り口付近で、褌(ふんどし)を締め直し道路のわきに座った。その景色は今も忘れない。心臓がバクバクしている。私は、ギターを取り出し、音響も何もないところでOasisの”Whatever”を歌った。
I'm free to be whatever I Whatever I choose
And I'll sing the blues if I want
(何になろうが、何を選ぼうが俺は自由だ。
ブルースを歌いたいなら自由に歌うし)
私は、恥ずかしさを打ち消すためか大きすぎる声で歌った。何を選ぼうが俺の自由だ、そう思いながら。人々は別に見向きもしなかった。恥ずかしいと思っていた自分の気持ちなんて知らず、見向きもしなった。そんなもんだ。ただそれも希望だった。
すると、ある男性がこちらに近づいてくる。何も言わず私のギターケースにお金を放り込んでくれた。1ドルと何セントかそのくらいだったと思う。この瞬間、私は初めて自分の力で音楽の力でお金を稼いだ。何とも言えぬ幸福感だった。
その日は声さえかけられなかったが、結局5ドルほどのお金を稼いだ。2時間は歌ったかな、、。2時間で5ドル(400円ほど)。ただ、そのお金は何にも代えがきかないものだった。明日からはどうしよう。それは恐怖ではなく、興奮からくるものだったと、神に誓って言えるだろう。人生はなんて自由なんだろう。その日はぐっすりと眠ることができた。