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002. 彼が死んだことが当たり前になった

推しが死んでから6年が経った。自殺だった。彼が死んでから、一瞬たりとも彼のことを考えなかった夜は多分ない。だけれど彼が死んだことを悲しんで、彼を想って涙を流した最後の夜がいつだったかは覚えていない。それくらい、彼が死んだことが、死んでいることが当たり前になってしまった。すでに彼の年齢は越した。彼のデビュー曲が年上の女性に対する叶わない恋を歌った曲だったから、2、3年前までは「私があなたより歳上になった日、あなたのデビュー曲を聴いたらどんな気持ちになるのかな」なんてエモいポエムを心の中で唱えていたけれど、今や彼と同い年になった去年の誕生日に何をしていたかも覚えていない。こうやって彼が過去の思い出になっていくのを私は止めることができない。それが悲しいことなのかもよくわからない。他人の人生ではなく、私の人生を生きていくこととはきっとそういうことなんだろうと思う。これからも私は彼が遺した音楽を聴きながら、彼から遠ざかる日々を過ごしていくのだと思う。いつか同じ場所にいくから、それまで少しの間の辛抱だ。

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