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東京と福岡、物差しを手放すこと

2023年11月末、福岡に生活拠点を移しました。

これまで東京に約10年間住んでいましたが、高校卒業以来13年ぶりに福岡で暮らしています。福岡に引っ越した理由についてよく聞かれるのですが、聞かれるたびに違うことを答えている気がするので、覚えているだけの理由と経緯をここに書いておきます。決して嘘をついてるわけではなくて、いろんな理由があるんだけど、人によって伝わることが違うので結果的にそうなっているということだと思います。

見たかったArlo Parks、見逃したDaniel Caesar

理由の前に、まず引っ越しを考え始めたタイミングと引っ越し時期について。2022年末くらいから引っ越しを考えはじめて、友達とか会社の人とぼちぼち話しながら、やんわり決めたのが2023年4月とか。5月にArlo Parksの来日があって、ここまでは絶対東京にいようと決めました。なんといってもArlo Parksはフジロック2022のマイベストアクトなので。その後7月にフジロック、8月にサマソニがあったので動けるはずはなく、9月から本格的に家探しを開始。だらだら探しながら、11月の向井太一の(向井太一名義ラストライブだった)ツアーファイナルが観たかったので、それをぼくの東京生活のラストライブとして決めちゃって、11月末に引っ越しました。したがって、急に来日を決めやがった12月のDaniel Caesarは観れてません。いや、それでも来てくれてありがとう。

初来日キャンセルから2019年、2023年のフジロックと観て、直近5年で一番くらいに聴いたアーティストだったので、来日初単独を逃すのは逆にありがたいというか、潔よく諦めがついた。福岡に引っ越すことを決めてから、これまで当たり前だったいろんな瞬間に立ち会えないことが増えるんだろうなと思っていましたが、こんなにも早くその日が訪れるとは。

東京に住む必要がなくなったとき、どこに住むか

さて本題です。

コロナ禍を経て、ぼくが働いている会社ではリモートワーク中心の生活を送れるようになりました。ありがたいことに社会が落ち着いても強制的な出社のルールはありません。これはぼくが福岡に引っ越すことを真剣に考えはじめた一番最初のきっかけになりました。

会社が表参道で、去年まで住んでいたのは下北沢の駅チカ。南口商店街の中にあったので、駅チカも駅チカ。通勤の満員電車が本当に苦痛だったので、30平米弱の1Kでそれなりの家賃を払いながら、通勤のストレスが低い場所に住んでいました。

更新のタイミングで、もう駅チカで高い家賃を払う必要はないので、いろんな可能性を検討しはじめました。小田急線で数駅離れた豪徳寺あたりとか、雰囲気が好きな世田谷線沿いとか、いつか住んでみたいと思っていた江ノ電沿いとか。いつからか移住先として人気になった地元福岡ももちろん頭の中にはありました。

とにかく、出社義務はなく、リモートワークで国内どこにでも住めるようになった。これはとても幸せなことなんだけど、一方で首都圏から離れて住むことも含めて考え始めて、当時ぼくが一番気にしていたのは文化体験へのアクセスでした。

集中した文化資本、縋った猿

ぼくは2013年に上京して以来、東京に集中した文化資本の多大な恩恵を受けてきました。上京したての頃は週4日ライブハウスに通ってた時期もあったし、好きなアーティストに声をかけて企画ライブもやった。Twitterで見ていた人は存在していて、会いたい人にはだいたい会えて、見たいライブもほとんど見れる。当時のぼくは「こんなにもチャンスがそこら中に転がっている環境があっていいのか」と感激していました。東京生活に慣れてからも、仕事終わりに同僚とBjörk見に行って、ライブ終了後20分で家についたときはさすがにイカれてるなと思いました。良くも悪くも、信じられないほど便利で刺激的な東京を満喫した10年間でした。地方出身者が東京で衝撃を受けた文化資本云々やアクセスの格差話はよくあることなのでこの辺にしておきますが、とにかくこの環境は魅力的で、首都圏を離れる判断は簡単ではありませんでした。

ただ一方で、自分はその恩恵を受け続けるだけで満足なのか、ということはよく悩みました。東京の特異性を身をもって知っているからこそ、東京だけで生活を完結することは避けたかったし、甘い汁を吸うだけのスタンスも本望じゃなかったので。

そんなことを考えていました、アジカンとか聴きながら。

息を吸って 生命を食べて
排泄するだけの猿じゃないと言えるかい

新世紀のラブソング / ASIAN KUNG-FU GENERATION

意思をもって、構造に抗う

数年前にnoteにも書いたのですが、文化資本格差とカルチュラル・アントレプレナー的態度は直近の関心事でした。

一人ひとりが与える影響に自覚的になり、意思を持って行動することは、文化の多様性を守る上で改めて重要性を増している。(中略)もちろんプラットフォームを利用することを否定しているわけではないし、これらは強制されるものではない。自由意志だ。ただ上の記事でも書かれているとおり、個人の意思があるなら表明しないと、大きな力によって世の中は動いてしまう。意思を持って発言すること、行動すること、署名すること、消費すること。文化に対して、個人が意思を持って行動することが、文化を守り、土壌を耕す一歩になる。

みんなで文化を育むこと〜 カルチュラル・アントレプレナーシップを考える

今読んでも共感できることが書いてあっていいね。いろいろ書いてるけど結局これでしかない気がしてきた。上で書いている「プラットフォーム」は元々UberやAmazonなどまさにプラットフォームを指していたのですが、今は「東京」に置き換えてもしっくりくる。

東京に人や資本が集まる構造があり、その構造が過度に力を持つことを疑ったり、それだけじゃダメだと思っているのであれば、自分から離れる判断をしてもいいよね?という考えがここ数年根底にありました。この社会の大きな構造との向き合い方は、自分にとって常に重要な指針でした。リモートワークであらゆる場所に引っ越せる前提の上で、この指針に反するような判断、つまり東京に住み続ける選択肢は考えれば考えるほどに薄れていきました。行動だけが現実。

福岡に決めた、深夜幕張

そんなことを考えていた夏頃、ソニックマニアの会場で日本人が異様に大好きなレジェンドバンドことQUEENさんの来日公演のポスターを発見。これが福岡への引っ越しの決め手になりました。

ソニマニの会場で見つけたQUEENの来日ツアーポスター

急な来日に喜び驚きつつ、日程を見て思わず笑ってしまいました。ビッグアーティストの来日公演として大サービスの4ヶ所公演!東京、大阪、愛知、北海道。福岡が入ってないことには落胆はなく、冷静に「あ、そういう序列なんだ」と思い、福岡と仙台が肩を抱きあい泣く姿を見ていました。そしてこのときから、世界中の才能と権威の集中をありがたがる価値観(=物差し)を一旦手放す心算ができた気がします。地元福岡にはその引力はないらしい。とすると、新しい物差しを見つけるにはぴったりな場所じゃないか、地元だし。

こんな感じで、深夜幕張にて福岡への引っ越しを決めました。今振り返っても自分偏屈だなと思うくらいには、反抗的で挑戦的な引っ越し。とはいえ福岡の中心部に住んでるし、都市的生活は捨てたわけじゃないのがミソ。捨てる必要もないんだけど。

街は変わるし、文化は生きている

話は変わって、街を知るには、暮らすのが一番早い。下北沢に直近4年ほど住んで、住民として街の変化を感じることのおもしろさを知りました。住んでいる間に駅は生まれ変わり、BONUS TRACKreloadができて雰囲気は大きく変わりました。大事なものは大事にしつつ、よりオープンな街になったように感じます。今でも大好き。

下北沢の再開発論は、奇々怪々の下北回に概ね同意です。ちなみにここで触れられているANJALIあたりに住んでいました。

福岡はいうて18年住んでたのでそれなりに知ってるつもりなんだけど、東京での生活経験を踏まえて、13年ぶりに福岡を咀嚼し直してみようというのが直近の意識です。特に最近は「天神ビッグバン」なる天神地区の大規模開発もあり、街は大きく変化している最中です。その変化も含めて、現地で当事者として街のことをより深く知りたい、楽しみたいと思っています。文化的なユニークさとか近隣アジア諸国の空気を受けたコミュニティ感とか土着的ないろいろに興味があります。福岡の素敵な場所も教えてください!韓国にもたくさん行きたい!韓国といえばSilica Gelがほんとにいいですね、最近ハマってます。

SNSで「福岡移住」文脈で流れてくる情報には、生活コストを抑えて東京の仕事してコスパいい!QOL爆上がり!みたいなものも多々ありますが、個人的には生活コストが低い云々はほとんど意識していません。むしろ福岡の生活コストの低さは、地元の人間としては必ずしも喜べるものじゃないと思っているので。

そういう意味では、ちゃんと福岡の企業と仕事をしたいと思っています。恩恵を享受するだけではなくて、ちゃんとこの街の社会に価値提供したい、参加したい。これは今年の個人的なミッションでもあります。

最後に、これは移住ではない

ということにしています。「移住」と聞くと、一世一代の決心!完全な決断!みたいな重いニュアンスを勝手に感じてしまうので、ちょっと苦手です。個人的には、暮らしてみて肌に合わなかったらすぐ東京に戻るつもりでもいます。本当は行くとか戻るとかもやめたい。今のところ福岡最高って感じだけど、福岡で家借りるのも仕事するのも初めてだし、何があるかわからないのでそのへんは柔軟でありたい。

そして、月に2回ほど東京に行っています。会社は変わらないので、オフィスに顔出したり、対面で仕事したり。なんだかんだ東京のおもしろさは捨て難いので、仕事ついでにライブ観たり映画館行ったりしてます。タイミングは仕事の都合見ながらマチマチだけど、2,3泊ずつしてます。

途中書いたように東京は大好きだし、友達もたくさんいます。ただ、できることならば東京だけで生活を完結させずに、福岡で暮らしながらまだ見ぬ楽しさの物差しを探してみたい。そんなことを考えています。福岡で会える人にはぜひ会いたいです、会いましょう。まだ全然書ききれている感じはしないんだけど、それはまた別の機会にします。

書きながら聴いていたこの曲を貼って終わり👋


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