父、暴走。恐怖の個人懇談。

中学三年生の時であった。

高校受験も押し迫り、生徒もソワソワ、先生もソワソワ。

お決まりの 個人懇談が行われることになった。

込み入った話もするのだろう。
当事者抜きの先生と親の受験前、最後の懇談である。

通常は母が対応していたのだが、その時はどうしても何かの用事で来られないという。

日程を変更してもらおうとしたが、なんと、父が代打で出席するということになった。

正直……それだけは、やめてくれと思った。

父がまともな対応をする人間だとは思えない。

母も、きっと日程変更を申し出てくれると信じていた。
しかし、進路も決まっていたという安心からか、 何と母は父が出席することを承諾してしまったのだ。

最悪である。

絶対に、無事に終わるわけがない。

半泣きでやめてくれと泣きついたが、
「大丈夫よー。お父さんにも、先生の言うことには、はいはいって返事しておけばいいって言ったから」
と、母には私の心からの叫びは届かず、あっさりと却下された。

私の心配をよそに、その当日はあっけなくやってきてしまった。

生徒は完全下校。

どうすることもできない。

父には、受験する高校も伝えてあるし、もう、信じるしかない。

そうだ、父だって、大人だ。

社会人として、立派かどうかわからぬが、生きている。

先生を前にきっと紳士な態度で臨むだろうと、自分を無理やり納得させ、家路に着いた。

夜になって、懇談からそのまま仕事に行った父が帰宅した。
さっそく「どうだった?」と聞いた。

「うん、はいはいって言っておいた」
と父は答えた。

ある意味、気が抜けた。
「ありがとう……」

何だ、心配するほどでもなかったかと、母とも笑ってその夜は過ぎて行った。

次の日、学校へ行った私は、いつもと変わらぬ学校生活を送っていた。

しかし、担任の様子がおかしい。

何かを言いたげにしているのがハッキリとわかった。

嫌な予感がした。

担任は、放課後まで待てなかったのか、掃除の時間にコッソリと私に話かけてきた。

「本当にいいのか?」

担任は、そう言った。

「はい?」

言っている意味がまったくわからない。

何が本当にいいのか、なのだろう。

なんだかこの会話は、イヤラシイ感じすらする。

私は担任に何の事かと聞いた。


すると、担任は衝撃の言葉を発した。

「進学せずに、許婚と結婚していいのか!?」

「はぁぁぁぁーーーー!?」

白目になるというのは、こういう時だ。

「進学する高校はここで間違いないですか?」
という担任の問いに、父は、

「うちの娘は進学しません。実は許婚(いいなずけ)がおりまして、中学を出たら花嫁修業をさせ、16で結婚することが決まっております」

と言ったというのだ。

やられた……と同時に、やっぱりやったのか……とも思った。

すぐさま気絶してしまいたい。
昨日の地球を滅亡させてしまいたい。

私は苦悩の表情を浮かべる先生に、とにかく完全否定をした。

家に帰って父を問い詰めると、ニヤニヤと笑っていた。
母は「また、余計なことして」と言ったが、やりかねないと思っていたのか、それ以上何も言わなかった。
まさか先生がそんな話を本気にするはずがないと思っていたようだ。

しかし、それから何度も担任は私の進路を心配し、本当に許婚はいないのかと確かめてきた。

存在しない許婚に振り回され、途中、私自身でさえ、本当は許婚がいるんじゃないかと疑心暗鬼になりながら、私は、
「絶対にいません」

と受験の当日まで答え続けたのだ。


受験を控えた子を持つ親御さんには、ぜひ試していただきたいものである。

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