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「オープンな性教育」は本当にベストなのか?~解放的性教育の余波~

日本では「避妊を教えること」と即物的に捉えられている性教育は、ドイツではさまざまな社会問題と絡めて、常に神経質に見直されているテーマです。

日本では「海外の性教育」と言うとオープンで具体的な姿勢を賞賛するものが目立ちますが、少なくともドイツでは、オープンで具体的な性教育が必ずしも評価されている訳ではありません。

新左翼による「子どもの性解放」

ドイツの性教育は、日本の比ではなくこじれています。

ドイツの性教育も、家父長的な家族観から「女性の性を解放する」というウーマンリブの流れの中で生まれ、「性的奔放を助長する」という議論で揺れた点では日本と同じですが、ナチズムへの反省と結びついたもう1つの軸により、日本とはまったくと言っていいほど異なる変遷をたどってきました。

もう1つの軸とは、「子どもの性の解放」の問題です。

新左翼系の運動家でもあった性科学者、ヘルムート・ケントラー(1928年―2008年)は1970年代、子どもの性を家父長的な価値観から解放し、子ども自身に性的な決定権を与えるべきだとする「解放的性教育(emancipatory sexual education)」を提唱し、その思想は80年代を通じて社会の強い支持を得ました。

ケントラーは、フロイト・モデル(人間は生まれながら性的な生き物で、乳幼児にも性欲はある、とするもの)が見落としているのは、幼児期を過ぎた子どもの性的権利であるとの立場から、性を抑圧するのではなく、性的に満足させるような性教育を行えば、性的誘惑にも強くなり、自らの性行動も正しく決定できるようになるとしました。

多様な性のあり方を教えること=リベラルか

「性について教える」といっても、避妊の話がメインではありません。

異性間の性行為だけでなく同性間の性行為、マスターベーション、性玩具、オーラルセックス、アナルセックス、サドマゾなど、多様な性のあり方を教えることにより、子どもたちは性を楽しくポジティブなものとして、また、多様なセクシュアリティを平等に捉えられるようになるというのです。

ケントラーは、自らが同性愛者であることを公言したドイツ初の知識人でした。また、現在では考えられませんが、

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