見出し画像

朝日新聞出版「アエラ」の対応

興味がない――。

人づてにもらったある月刊誌の編集長からの返事だ。この言葉に子宮頸がんワクチンの勧奨再開を後押ししたものすべて象徴されている。

8年半という時間とパンデミックだ。

子宮頸がんワクチンを接種した「後で」はじまったという痙攣する女の子たちの映像は風化し、子宮頸がんワクチンは危険なワクチンだという話も忘れられていった。同時に、子宮頸がんを防ぐワクチンがこの世に存在するということも忘れられた。

2021年11月26日、子宮頸がんワクチン接種勧奨の差し控えは終わりとすることが発表された。長い時間がかかったが一歩前進だ。

いま、ワクチンと言えば新型コロナワクチンだ。ワクチンと抗生物質のお陰で感染症に苦しむ人を見る機会は激減した。感染症の怖さもワクチンや抗生物質の有難さもあまり実感することがなくなっていたところへパンデミックが始まり、感染症にもワクチンにも再び大きな関心が集まることになった。

先日、朝日新聞出版の週刊誌「アエラ」に新型コロナの件でコメントを提供する機会があった。

ちょうど勧奨再開が決まったところだったので、担当者に「子宮頸がんワクチン問題について寄稿させてほしい」と伝えると、アエラでは通常、識者寄稿は受け付けていないのだが、ひとりのライターとして書くことは可能なのでそれが早道だしベストだろうと言う。

さっそく企画書を書き、編集会議にもっていらうと見事に通してくれた。

企画決定後、「詳しくは担当者から連絡させますが、執筆と識者インタビューのどちらがいいか希望を教えてください」と改めて聞かれたので、「寄稿でお願いします」と答えた。

ところが、その後、副編集長という人から「取材でお願いします」という連絡があった。

事情が呑み込めず、「執筆は本業でやっているので編集のお手間は取らせません。ぜひ寄稿でお願いします」と返すと連絡が取れなくなった。

仕方がないので企画書を通してくれた記者に確認をお願いすると、「編集長とも改めて確認したのですが、子宮頸がんワクチンについては弊社にも当事者的なところがあり、今回の原稿は編集部の取材原稿とさせていただきたいと考えております」と副編からすぐに連絡があった。

そこで、「承知しました。それでは、ほかの識者とコメントを並べるのではなく、私の単独取材の記事とし、原稿は校了前に確認させてください」と返すと、今度は「大変申し訳ないのですが、今回は原稿の性質上、複数の識者や取材先に取材をする必要がありますため、ご要望にお応えするのは難しいと存じます」という。

朝日新聞出版の記者は朝日新聞からの出向者が多い。かつては朝日新聞もアエラも週刊朝日も「子宮頸がんワクチンは危ない」という誤解を広げるのに大きな役割を果たした。

だからこそ、アエラに私が執筆することや私の取材記事が載ることは大きな意味やメッセージ性があると思っていた。

企画会議に話をもっていってくれた記者は、「村中先生に書いてもらうのが一番だと何度も伝えたし、今でもそう思っていますが、失礼なことになってしまい大変申し訳ありません」と平謝りだったが、彼にはどうにもできないことも分かってはいた。9年近い時間が経ってもなお子宮頸がんワクチン問題について話をすることはこんなにも難しいものなのか――。

今からでもメディアが果たせる役割はたくさんある。
いや、むしろ今からでもやらなければならないことが山のようにある。
アエラや朝日新聞だけでなく、全てのメディアが全力を上げてやらなければならないことが。

「稀であってもけいれんなど重い副反応が起きる危ないワクチンをなぜ再開するのか?」
「がんを防ぐベネフィットが大きいから、副反応のリスクには目をつぶれというのか?」
「勧奨が再開しても娘には接種させたくない」

接種勧奨がとまった経緯や原因に触れることなく、何事もなかったかのように「勧奨再開」と書かれた記事を読み、人々はこんな風に混乱している。

“「ワクチンの副反応である」と言われたけいれんなどの症状とワクチン薬剤は、実際には何の因果関係もなかった”

この一行を書かずに、今さら接種率が低いのは問題だのがんを防ぐ高い効果のあるワクチンだのと書いても、ワクチンでがんを防げることのインパクトや大切さが伝わることはないだろう。

できれば寄稿を、取材記事であれば単独取材にして欲しいし原稿も見せて欲しいと言ったのは、注目を浴びたいからではない。いま人々に必要なのは、伝えるべきメッセージをきちんと伝える、混乱の霧を晴らす記事だと思ったからだ。

当たり障りのないコメントを引用され、ほかの人たちの当たり障りのないコメントで薄められれば、伝えたかったメッセージは消えてしまう。

子宮頸がんワクチン問題において私はアエラや朝日新聞以上に当事者だ。

だから自分で書きたかったし、自分で書けないのであればせめて私の取材記事にしてほしかった。アエラは当事者だからコメント取材しかできないというのはどういう論理なのか。

アエラがどんな記事を書くつもりなのかは知らない。

しかし、子宮頸がんワクチンが事実上の接種停止に陥り、ワクチンで防げたはずのがんのリスクに数百万人という日本人女性をさらすことになったことに関し少しでも責任を感じているのであれば、もっと誠実な対応があったのではないかと思う。

なおここまで書いたところで、コメント取材であれば辞退する旨とこれまでのやり取りを記事にするつもりであることを副編集長に伝えると、今度は編集長からメールが来た。

「やりとりさせていただいております件、改めまして私からご連絡いたします。少しお時間を頂戴できればと思います」

来春から正式に始まる勧奨再開まで約9年――。

「少しお時間」とは、あと何年か。


さいごに、編集長から来たメールの衝撃的な内容について記しておく。

ここから先は

651字

¥ 300

正しい情報発信を続けていかれるよう、購読・サポートで応援していただけると嬉しいです!