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「コットンパール」 Ep.15

 あれから私は、相馬くんに言われた事について時間をかけて考えた。彼は、晴人への気持ちを押し殺さなくてもいいと言ってくれたけど、それでもまだ少し怖い気持ちが残っていた。
 それに、相馬くんから沙耶にも相談する事を勧められたけど、1度友達が離れていった恐怖を味わうと、また同じ事が起こるんじゃないかと思ってしまい、“本音で話す”と言う事が、本当に難しい。特に、中学の事があってから、人と距離を置く事が癖になってしまっていてなおさらだ。

 それでも沙耶の優しさは誰よりも知っている。だから、沙耶に今までの話をする事を決めた。

 今日は、期末テストの最終日で、私は、沙耶にテスト終わりに街に出てカフェにでも寄って帰ろうと事前に約束しておいた。
「沙耶、帰る準備できた?」
沙耶に声をかける。
「うん。行こー。」
沙耶が返事をして、私と彼女は街に出かけた。

いつも行くカフェに着いたら、私と沙耶はホットチョコレートを頼んだ。
「テストどうだったー?」
沙耶が聞いてきた。
「まぁ、まぁかな〜。でも、英語がけっこう難しかったかも。」
「だよね! 私も英語ダメだったぁ。でも、とりあえず終わったからいいやっ! それにもうすぐ冬休みだしね。」
「もう冬休みかぁ。なんか2学期はあっと言う間だったなぁ〜。」
私は、晴人の告白や相馬くんとの事を思い出し、本当に色々な事があったなと感じていた。

「その後さ、晴人とはどうなってるの?」
沙耶が、その話題に触れてくれたので、私も自分の言いたい事を切り出しやすくなった。
「その事なんだけどね。実は、後夜祭の時に晴人に告白されたの…。」
「えーー! 聞いてないよ〜!」
私が伝えていなかったからか沙耶は驚き、そして少し寂しそうな顔をする。
「でも、そうだったんだぁ。それで? じゃあ、今、晴人と付き合ってるの?」
「ううん。それが断ったの…。その事も含めてね。私沙耶にずっと言えてない事があって…。 中学の時の事だから、少し話が長くなるんだけど…、いいかな…?」
「もちろんいいに決まってるじゃん!」
沙耶は、私の心配をよそに直ぐにそう言った。

 私の話を聞いたら、沙耶は、どんな反応するのか少し怖い。でも、沙耶はいつも私のことを考えてくれていた。裏表のない性格で、いつも真っ直ぐな沙耶。そういう沙耶だから私もずっと一緒にいられたんだ。沙耶が私を裏切ったりする事はない。
勇気を出そう。

 それから、私は相馬くんに話したように、沙耶にも中学3年の出来事を話した。
「そんな事があったんだね。杏は、本当に優しくて強いね。私だったら、そんな事があったとしても1人でいる事は選べないよ…。杏のことをみんなクールって言うけど…、もちろんそれも杏の一部分でクールでかっこいいんだけど、私は、ずっとそれは、杏の芯の通った強さだと思って憧れてたの。今の話を聞いてわかったけど、杏の強さは、相手を大切に思う優しさからだったんだね」
沙耶の思いがけない反応に驚いた。沙耶は、私のことをそんな風に思っていてくれたんだ。また、涙が溢れた。
相馬くんの時と同じように、凍っていた氷が溶けていくような、私の心は沙耶の暖かい言葉で満たされていった。
沙耶の手が、私の手を握る。すごく暖かい。沙耶の目も少しだけ涙ぐんでいる。
「沙耶、ありがとう…。あと今まで言えなくてごめんね。」
「ぜんぜん謝る事じゃないよ。私は、杏が話したい事があれば聴くし、話したくないって思ってるなら聞かないよ。私は、その時の杏の気持ちを大切にしたい。」
「ありがとう。 私、こんなに良い友達と巡り会えるなんて思ってもいなかった…。」
涙も止まり、落ち着いてきたのでもっと自分の気持ちを沙耶に伝えたいと思った。
「私、もっと早く沙耶に色々相談したり、話したりすれば良かった…。中学の事があったからいつか裏切られたらって、勝手に思っちゃって…。そんな訳ないのにね…。あーあ、高校時代の半分くらい損しちゃった!」
最後は、冗談っぽく笑って言った。
「本当に! 私が杏を裏切る訳ないじゃん! でも、今からでも遅くないよ! これからたくさん話もするし、相談も載るし。 もちろん私の相談にも載ってもらうんだけどねっ! 私も本気で相馬くん狙ってみようかなって…!!」
「え? 沙耶、相馬くんのこと本気なの?」
私は驚いて、そして笑顔を返した。

2人の間に暖かくて、優しい空気が流れる。

「えーと、今は相馬くんのことは置いといて…。それで、晴人のことはどうするの?」
沙耶が、少し心配そうに聞く。
「どうしたらいいんだろう…。好きな気持ちは変わらないんだけど…。まだ少し怖いのもあるし…。それに1度断っちゃってるから、何をどうしたらいいのか…。」
私は迷っている事をそのまま伝えた。
「そうだよね…。う〜ん。とりあえず、なんか上手くいく方法考えよ。今度、どうしたら良いか一緒に作戦会議しよう。杏が、これだけ前向きになれてきてるんだから大丈夫!」
沙耶は笑顔でそう言って、私を応援してくれた。
私たちは、時間も遅くなってきたのでカフェを出ることにした。

外はすっかり暗くなり、今日は一段と寒かったが、沙耶に自分の思いを話せた事と沙耶の暖かさに触れ、心は芯から温まっていた。

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