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「コットンパール」 Ep.13

 私は、誰もいない図書室で晴人を待つ事にした。
さっきの晴人、あんなに息切らしてたから、本当に慌てて追いかけて来てくれたんだろうなぁ。
なんかすごく嬉しい。
すごい暖かい気持ちになった事が自分でもわかった。その暖かさと同時に少し怖さを感じる。

30分程で、晴人が図書室に入ってきた。
「杏、待たせてごめんね。てか、電気付けないの?」
制服姿だけど、いつもよりラフな着こなしの晴人。いつもと違う晴人がまたかっこよく見えた。
「花火、暗い方が良く見えるんじゃない?」
「あ、そっか!」
晴人が感心したように言う。
「花火って何時からなの? 私、後夜祭のスケジュール見てないからわからないんだけど…。」
「そんなに後夜祭、興味ないの? 時間は18時スタートだよ。」
晴人は、少し笑いながら言う。
「んー、あんまり興味ない…かも。大人数でいるの疲れちゃって…。」
「そうなんだ。でも、ここなら俺らしかいないし、花火もよく見えそうだし、いいよな。」
はにかんだ笑顔の晴人にドキッとする。
そういえば、沙耶が、後夜祭では屋上が特別解放され、ほとんどの生徒はその屋上か校庭で花火を見ると言っていたのを思い出した。
「うん、ここならいいかも。」

校庭や校舎内からは、メガホンで話している声、賑やかな声、楽しみに満ち溢れている声が聞こえてくる。

図書室は静かで、私たち2人の声だけが響く。
「そろそろ18時だ! 窓の方行こう。」
晴人が私の左手を取り、窓際に向かう。

急に鼓動が早くなったのがわかった。
晴人の手、暖かい。
繋がれた手を見て、鼓動がまた速くなる。

 図書室の窓からは校庭に集まる生徒たちが見えた。
すると、一筋の光が夜空を駆け上がり最初の花火が打ち上がった。
花火の音が胸に強く響く。
「きれい…。」
自然と声が出た。
「本当にきれいだね。」
「文化祭の花火だから、もっとショボいのかと思ってたけど、すごくきれいなんだね。」
私は、少し笑って晴人に話しかける。
「でしょ? 規模は小さいし時間も短いけど、文化祭にしてはすごいよな。」
赤、青、緑、黄色、色んな色の花火が打ち上がる。
胸を打つ花火の音と、晴人に対するドキドキと、私の胸はいつもよりずっと騒がしい。

 花火も盛り上がりを見せ始めたのか、多くの花火が打ち上がっている。
その時、晴人はずっと繋いでいた私の左手を引き、私は晴人と向かい合った。晴人は私の右手もつかみ、両手を繋いだ。

ドキドキが止まらない。

「あ、あの、俺、杏に言いたいことあって…。」
晴人は、真剣な目で私を見つめる。
「たぶん、杏はもう気付いてると思うけど…。俺、杏のこと好きです。俺と付き合ってください!」
外では、クライマックスの花火が上がり、一番の盛り上がりが起こっている。

晴人が言うように、きっと晴人は、私のこと好きって、気付いていた。
私も、晴人のことが好き…。

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