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「コットンパール」 Ep.12

 私たちはそれから、他のクラスの模擬店を何店か回り、唐揚げや焼きそば、飲み物を買ってベンチで休憩する事にした。
「お化け屋敷、本当に怖かったー。」
「沙耶、途中少し泣いてたよね。」
私はからかうように沙耶に言う。
「わー、言わないでよ〜。超怖かったんだから。でもそのおかげで相馬くんに助けてもらっちゃったし、ラッキーかも! 相馬くん本当にかっこよかったぁ〜。」
沙耶にとっては、お化け屋敷の恐怖より相馬くんに助けてもらった事の方がインパクトが大きかったようだ。
「そうかなぁ…。」
相馬翔矢の事はよくわからないので、曖昧な返事になってしまった。
「杏は、相馬くんより晴人だもんね?」
ニヤッとしながら沙耶が言う。
「そんな事ないもん…。」
晴人の名前を出されて少し照れる。
「てか、お化け屋敷に晴人いなくなかった?  杏見かけた?」
「いなかったと思う。でも私たち途中でリタイアしちゃったし…。それか休憩中だったのかなって。」

 それから、私たちの休憩時間も終わり自分たちのカフェに戻って行った。その頃には、お客さんは少なくなっていて、クラスメイトは少しずつ片付けを始めていた。私は、片付けをしながら晴人の事を考えていた。
今日は、ぜんぜん晴人と会えなかった。少しだけでも会って話したかったな。

 「杏ちゃんは、後夜祭出るの?」
一緒に片付けをしていたクラスメイトの女子が話しかけてきた。
「杏は、出ないって言ってたよね。」
沙耶が答える。
「うん。私は、片付け終わったら帰ろうかな〜。」
私は、クラスメイトにそう答えた。
私の学校は、後夜祭には花火が上がる。後夜祭もすごく盛り上がる事で有名で、ほとんどの生徒が参加する。だが、私はイベント事に興味がないし、昨日今日で色んな人と関わって疲れたので、できるだけ早く帰りたい。

 意外と片付けに時間がかかり、外は夕日が沈み始めている。
「じゃあ、私は帰るね〜。」
沙耶や他のクラスメイトに声をかける。
「暗くなってきてるから気を付けてね。バイバイ。」
みんなに挨拶をして廊下に出る。まだ、他のクラスも片付けをしてる最中のようだ。
しかし、花火の時間も近付いてきるからか、廊下は走り回る生徒たちで少し慌ただしかった。

 私は昇降口で、靴に履き替え校舎を後にした。
外にもまだ生徒がたくさん残っている。文化祭実行委員の生徒たちが、後夜祭の準備をしているのが見えた。みんな後夜祭を楽しみにしているようだ。

 校門を出ようとした時に、「杏!」と呼び止められた。晴人の声だ。
「はぁ、はぁ…、杏、ようやく会えた…。」
晴人は、走ってきたみたいで息を切らして、苦しそうにしている。
「晴人…、大丈夫?」
「高田から、杏、今帰ったところって聞いて…。 それで、慌てて追いかけたから…。」
ぜんぜん呼吸が整わないので、本当に急いで追いかけて来たことがわかる。
少し間を置き、ようやく呼吸が整ってきて、晴人が言う。
「いや、いや、そんな事、言いに来たんじゃなくて、えっと…、一緒に、後夜祭の花火見よ? …」
私は、ぜんぜん予想していなかった突然の誘いに驚いた。
「えっと、私、今帰るつもりでいて…。」
どうしていいかわからず、自分の状況を説明してしまう。
「あ、何か用事があるの?」
「ううん、用事はないけど…。」
「それなら…、一緒に花火見てくれないかな…?」
沈みかけの残りわずかな夕日が、晴人の少し恥ずかしそうにしている顔を照らす。

ドキドキした。

「うん。いいよ。」
私も恥ずかしかったけど、そう答えた。同時に、すごく嬉しかった。
「やった! ごめん。でも俺、いったん片付けに戻らないとで、まだ、服も着替えてないし…。」
言われてみれば、晴人はまだ血まみれ執事のままだ。それが少し面白かった。
「だから…、えっと、図書室! 図書室で待ち合わせよ!」
少し慌てながら言う晴人。
「うん。わかった。じゃあ、私は先に図書室に行ってるね。」
「じゃあ、また後でね。」
「うん。片付けがんばってね。」

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