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「コットンパール」 Ep.17

 あれから数日経ったが、私は晴人へLINEが送れずにいた。
ただ、“終業式の後、一緒に帰ろう”とLINEをすればいいのだが、それがなかなか出来ない。

 冬休み前の消化試合みたいな授業を受けながら、晴人へのLINEのことを考える。
私からいきなりLINEしたら、晴人はどう思うのかな?
私が告白を断ったのに、一緒に帰ろうなんて誘ったらいやに思うかなぁ?
最初は当たり障りのないLINEを送った方がいいのかな?でも、それってどんな…?
ずっと頭で色々考えちゃって、勇気が出せない。
もう終業式は、明後日なのに。

「杏、晴人にLINEは送れたのー?」
休み時間になり、沙耶が声をかけてきた。
「それが…、まだ送れてないの…。色々考えちゃって、何て送ればいいのかわからなくなってる…。」
私は、自分でも自分の臆病さに呆れそうだ。
「そっか。でも、明後日には終業式だよ? 晴人、友達と予定とか入れちゃうかもだから早く連絡しないと!」
沙耶は、私の気持ちも考えながらも少し急かすように言った。
それからお昼休みには、相馬くんにも「あいつ部活のやつらと予定入れちゃうかもよ? 今日の夜には連絡しろよな。」と沙耶と同じように急かされた。

 私は、午後の授業もまったく集中できずに、学校を終え帰宅した。早々に夕飯とお風呂を済ませて、自室で一息つく。
よし! あれだけ2人にも背中を押してもらってるんだから、勇気を出して晴人にLINEしてみよう。
私は、時間をかけてLINEの文を考える。
[久しぶり! もうすぐ冬休みだね。 終業式の後、予定がなかったら一緒に帰りませんか?]何度も何度も、文章を打っては消して作り直して、を繰り返したが、結局、単刀直入に一緒帰ろうと誘ってみることにした。
なかなか送信できない。
好きな人に自分からLINEをするのってこんなに勇気がいる事なんだ。
LINEするだけなのにドキドキしてる。
私は、また、よし!っと自分に気合いを入れて晴人にLINEを送った。
とにかく無事に送れたので、ほっとため息をついた。

 そうすると今度は、晴人からの返事待ちでドキドキする。
返事が来るまでの時間がすごく長く感じたが、晴人から1時間もしない間に返事がきた。[久しぶり! ごめん!終業式の後は部活のやつらと約束しちゃってる…。]
そっかぁ。
私がLINEするの躊躇ってたから…。でも仕方ないよね。
内心では、私から初めてLINEして、勇気出して誘ってみたけど断られちゃって、すごく寂しい気持ちになっていた。
[そっかぁ。それなら大丈夫だよ!楽しんでね。]
私は、すぐ晴人に返信をした。
[本当ごめんね!]
[ぜんぜん大丈夫だよ! また誘うね。]
晴人がとても気にしている様子だったので、少しでも気持ちが軽くなればと思い、また誘うね、という文言を付け加えた。
その後、私は沙耶と相馬くんにLINEで、[晴人にLINEしてみたけど、晴人予定入っちゃってた…。]と報告だけした。


***

 次の日の朝になり目が覚めた。学校に行くのがなんとなく憂鬱だ。学校に着き教室に入ると、沙耶はもう登校していた。
「沙耶、おはよう」
私から挨拶をする。
「おはよう。杏、眠れなかったの? 疲れた顔してる。」
沙耶が心配そうに言う。
「うん。あんまり眠れなかった…。」
「晴人とは、終業式の後の事誘った以外にLINEしたの?」
「ううん。すぐに終わったよ。好きな人にLINEするだけでこんなに色々考えちゃうんだなぁ~って。」
「そっかぁ。とりあえずさ、終業式の後は、うちらでいつものカフェにでも行こうよ?」
「そうだね。相馬くんも予定、空いてるか聞いてみよう。」

 今日の授業はぜんぜん頭に入ってこなくって、時間だけが過ぎていつの間にか放課後になっていた。

「杏、帰ろう」
沙耶が帰り支度をしながら声をかけてきた。
「私、今日は気分転換に図書室でも寄って帰ろうかなって、いい?」
「いいよ~。明日、カフェでたくさん話そう。」
「ありがとう。そしたらまた明日ね。」
「うん。また明日~。」
沙耶は挨拶をしながら手を振り、教室を後にした。
私は、また教室に戻ってくるつもりで鞄は自分の机に置いたまま、図書室に向かった。

 図書室は、相変わらず生徒はほとんどいない。私は、特に目的の本があるわけでもなかったので、なんとなく本棚に並ぶ本の題名を流し見する。題名を目で追ってはいるが、考えているのは違う事だった。
最近ずっと考えているのは、晴人のことだ。私は、自分が思っている以上に晴人のことを想っているみたい。晴人のことで、気持ちがたくさん揺れ動く。

 私は、なんとなく目に留まった真珠のイラストが描かれたハードカバーを手に取った。題名や表紙を見る限り恋愛小説だ。私は、この本を借りて鞄を取りに教室に戻る事にした。

 隣のクラスを通り過ぎようとした時、その教室から話し声が聞こえてきた。教室の窓は閉められているが、ドアが少しだけ開いていてそこから2人いる事がわかった。
2人のうちの1人は、確認しなくても声ですぐにわかった。晴人だ。そして、もう1人は晴人と同じクラスの女子が見えた。

 胸がきゅーと締め付けられる。この状況を見れば誰だってわかる。告白だ。
その場から離れたかったが、足が動かない。2人の会話は遠くて聞こえない。
しばらくして女子の方が、泣いているのがわかった。
きっと、女子の方から晴人に告白をして晴人が断ったんだ。
私は、ふっと我に返り足早にその場から離れ、自分の教室に戻った。

 鞄に借りた本を少しだけ雑にしまい、私は急いで教室を出た。今、晴人に会いたくない。帰り道の間中さっき見た光景が頭のなかにしっかり貼り付いて、離れてくれない。

また、晴人のことで気持ちが揺れ動く。
晴人のこと好きなのは私だけじゃないんだ。晴人は、断ってたみたいだけど…。
この前は、晴人は私のことを好きって言ってくれたけど、これからも好きでいてくれる?
私じゃない女の子と付き合ったりすることもあるのかな。
晴人の隣にいるのが私じゃないなんて、いやだよ…。

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