印度料理シタール@検見川 増田静枝さん(昭56心)・理絵子さん(令4営)
平日でも開店前から多くの人が並び心待ちにしているのは、「印度料理シタール」で頂ける、インドの伝統を大切にした本格派の料理の品々。千葉県検見川・幕張エリアにあるこのお店は、増田静枝さん(昭56心)がご夫婦で経営され、カレー好きなら一度は訪れたいと謳われるほどの有名店だ。賑わう店内には、他の店員さんにテキパキと指示を出しつつ、自らもお客様に快活に接客をされている増田静枝さんの姿があった。
偶然が重なった学生時代
高校生時代、アメリカの精神科医によって児童虐待について書かれた「ローラ、叫んでごらん」を読んだことをきっかけに、当時は珍しかった心理学を学ぶことを目指した増田さん。希望通り、心理学を学べる立教大学文学部心理学科に進学をした。学校生活では、友人に誘われ、あれよあれよという間にホテル研究会に所属となったそう。長期休みでは、チームごとに全国のホテルへ行き、約40日間の合宿兼実習に励んでいた。ホテル研究会やカフェでのアルバイト経験がいつの間にか今に繋がっていたと静枝さんは振り返る。また、学生生活での偶然のアルバイトがその後の人生を大きく変えた。ホテル研究会の友人の代わりに入った、池袋西武本店のデパ地下のアルバイトで出会ったのが、隣店舗のインド料理屋「AJANTA」に勤めていた現在のご主人だ。まもなく交際が始まり、2人は卒業とほぼ同時に結婚とお店を出すことを決めた。
何も知らないからこそ、怖さも知らなかった
ご主人の遠縁の親戚の方に空き店舗の運営を誘われ、夫婦とも縁もゆかりもなかった千葉県にお店を開くことになった。当時はインド料理の知名度が低かったため洋食店を出そうか迷うご主人に、静枝さんは自分自身が修行してきたインド料理を貫くことを薦めたそう。
結果、心配は取り越し苦労となりチラシや地域新聞を見たお客さんが多く訪れ、翌年には借金を背負い、店舗拡大も行った。卒業後すぐお店を開き、そして拡大というスピード感に怖さはなかったのだろうか。この問いに対し静枝さんは「若さ故に何も知らず、怖さも知らなかったからこそ出来たことだった」と当時を振り返った。また、美味しいものを楽しむグルメの時代が到来したことや近隣の大学教授等の文化人が新しいインド料理に注目したことが、お店を後押しした。
その後、お店の多店舗化を図るが、オペレーションの確立化や人材育成の難しさの壁にぶつかる。「商いは飽きないことが大切。」その意識を胸に、多店舗化を経験したからこそ、自分たちの思い描くスタイルや空間の提供に拘るという軸を見つけ出すことが出来た。
また、当時の日本ではインドに対して、バックパッカーや混沌というイメージがあったが、インド産の紅茶や当時はまだ日本で親しまれていなかったマンゴーなど優れた品々の認知を広げようと輸入卸事業も始めた。実際に自らの舌で味わい、現地で自らの目で確かめることにこだわった品々だ。取材当日、インドから輸入しているマンゴージュースをご厚意で頂いたがその濃厚さは目を見張るものがあった。
世の中は空前のカレーブーム。日本に初めてインド料理店が出来始め、そこで修行したいわゆる第二世代のご主人が作るカレーからなる印度料理シタールのこだわり、それはインドの食だけではなく背景にある文化・宗教へのリスペクトと伝統のレシピを大切にする姿勢だ。ただスパイスを掛け合わせるのではなく、伝統の手法にのっとり組み合わされたカレーの味わい深さが人気の由来だろう。
自由と責任。そして、次世代へ。
自営業の魅力は、自らの思いを自らの手で素晴らしいチームと共に体現できること。しかし、その自由と同じくらいの責任がのしかかる。静枝さんはそんな責任を、次の世代へ良い形で繋ぐことも重要な要素と捉えている。今後、お客様はもちろんお店の経営にかかわる人までもが人生を楽しむ場となることを最優先にし、安心・安全に働ける環境つくりに注力していくそうだ。
時代が変わっても、両親が作り上げてきたものを軸に。
娘の理絵子さん(令4営)は現在、社員としてお店のキッチンで働いている。生まれた時から、このお店の存在自体が家族の一員のような感覚だったそう。幼い頃は遊びに行く場所だったお店でアルバイトをしたこと、大学で経営の難しさを学んだことをきっかけにお客様に愛され続ける「印度料理シタール」の素晴らしさを肌で実感した。そのため次世代として一番大切にしたいことは、両親が作り上げた信念だという。「時代と共に求められるものも変わるかもしれないが、お客様・従業員・インド文化へ対するリスペクトを忘れずにお店に関わる人すべてを幸せにしたい」とお店への愛のこもった思いを語った。
(学生ライター・筑波まりも/文)
<店舗情報>印度料理シタール
〒262-0023
千葉県千葉市花見川区検見川町1丁目106−16