チョロ陰キャの異世界転生生活 第3話

〇昼の森
一番高い丘の上で目の下にクマを作ったリコが体育座りをして町のある方角を見つめている

リコ(この3日間、ワクワクして眠れなかった)
リコ「まだかなー」

革のポシェットから手と同じ大きさの薄い木の板の束を取り出して見つみてニヤニヤするリコ

リコ「これさえあれば軽快な会話が出来る……くっくっく」

板には話題と返ってくる言葉とそれに対する返す言葉がすり潰した木の実の汁で書かれている

カンペを眺めてニヤリと笑うリコ

リコ(カンペも作ったし、ネコと会話の練習をしたから完璧だ)

森の入り口からルイの声が聞こえてくる

ルイ「おーい! リコー!」

立ち上がってルイの位置を確認したリコはネコに乗って森を駆け抜ける

〇森の入り口
森へ向かってリコを呼ぶルイ

ルイ「おーい! リコー!」

ネコから降りてルイの斜め前の木の陰から顔を覗かせるリコ

リコ「ルイ……ちゃん」

キョロキョロしてリコを探すルイ

ルイ「ん? どこかから声が……」
リコ「ルイ……ちゃん」

リコを見つけたルイ

ルイ「何で隠れてんだよ」

ルイに見られて更に木の陰に入るリコ

リコ「えっと……恥ずかしくて」

呆れるルイ

ルイ「はあ? 恥ずかしいだぁ? 何を今更……目の前でゲロ吐いて虫の息になっても帰りはニコニコしてたじゃねぇか」
リコ「そうだけど……あと、あたしみたいなのがルイちゃんと一緒に居てもいいのかなーって……」
ルイ「何言ってんだよ。俺は一緒に居てもいいと思ったから友達になったんだぞ」
リコ「そ、そうだよね……」

木の陰でゲロを吐くリコ

リコ「おぅえぇえええっ!」
ルイ「何で吐くんだよ!」

ヘロヘロになったリコを洞穴へネコが引き摺って運び出し、後ろをルイがついていく

ルイ「お前吐くの禁止な」

引き摺られながらしょんぼりするリコ

リコ「でも……」
ルイ「でもじゃない。次、吐いたら絶交だから」

鼻水とヨダレを垂らして大泣きするリコ

リコ「わぁああああんっ!」

クスッと笑うルイ

ルイ「リコ、お前何か面白いな」

泣き止んで照れ笑いするリコ

リコ「え? 面白い? ……えへへ」

真顔に戻るルイ

ルイ「いや、褒めてねぇからな?」

鼻水とヨダレを垂らして大泣きするリコ

リコ「わぁああああんっ!」

大笑いするルイ

ルイ「あははははは! 冗談だよ。リコはおもしれぇな。感情の起伏が激し過ぎだろ」

泣き止んでグズグズの顔で照れ笑いするリコ

リコ「え、えへへー」

〇洞穴の中に到着
ネコが消えていく

ネコ「にゃー」

立ち上がったリコはモジモジする

リコ「ル、ルイちゃん……あのね……」
リコ(ここからはあたしがルイちゃんをおもてなししなきゃ)

獣の皮で作った座布団をルイの前に置いてポンポンと座布団を叩く

リコ「これに座って下さいます」
ルイ「何だ? 喋り方おかしいぞ? いや、まぁいいか……座ればいいんだな?」

履き物も脱がずに座布団へ胡座をかいて座るルイ
戸惑うリコ

リコ(何か思ってたのと違う……)

ルイ「座ったけどこれから何をするんだ?」

洞穴の奥へ駆けていくリコ

リコ「ちょっと待ってて下さいます」

茶葉っぽい乾燥葉っぱで淹れたお茶モドキとお茶請けのスライス焼きバナナを木の板に乗せて運んできたリコはルイの前へ出してニヤリと笑う

リコ(このおもてなしでルイちゃんはイチコロだ)

向かいに正座してルイに見えないようにクスクスと笑うリコ

リコ(もしかしたら親友になってくれるかもしれない)

焼きバナナを手に取るルイ

ルイ「これは?」

背筋を伸ばして答えるリコ

リコ「スライス焼きバナナます」
ルイ「リコが作ったのか?」
リコ「今は亡きネコが作った置き土産ます」
ルイ「置き土産とか言うなよ。食い難いだろ」

ルイは残さず食べた

ルイ「ごちそーさん。美味かったよ。で? どうする? 友達作りに町に行くか? それとも俺と何かして遊ぶか?」

ハッとするリコ

リコ(カンペを使う時がきた!)

ルイをチラチラ見るリコ

リコ「ルイちゃんとおは……お話……したいます」
ルイ「話?」

リコ「うん……ます」
ルイ「なら、その変な喋り方はやめろ。いつも通りの喋り方にしてくれ」
リコ「う、うん」

リコ(ルイちゃんはおもてなしの綺麗な言葉遣いが苦手なのかな?)
リコ(あたしも苦手な物がいっぱいあるし、ルイちゃんにも苦手な物はあるよね)
ルイ「で? どんな話する?」
リコ「お話……考えてきた」
ルイ「ほう。じゃ、聞かせて貰おうかな」
リコ(来た、あたしのターン)

カンペを取り出すリコ
カンペには質問の順番が小さく書いてある

リコ(順番通りやっていければルイちゃんをイチコロに出来る)
リコ「年齢と……か、家族構成は?」
ルイ「ん? なんだ、その質問。まぁいいや。歳は18、親父とお袋と兄貴と俺の4人家族だ」

まっさらな木の板に答えを書き込んでいくリコ

リコ「18歳……パパ、ママ、お兄ちゃん、ルイちゃんの4人っと……」
リコ「えっと、次は……家族の職業は?」
ルイ「んぅ!? 職業? 何故にそんな……いや、まぁいいけど。親父はキコリ、お袋は薬草売り、兄貴は勇者、俺は酒場の給仕をやってる」
リコ「キコリ、薬草売り、勇者、酒場の給仕っと……」
ルイ「おい、リコ」
リコ「なに?」
ルイ「これ何の調査?」

慌てふためくリコ

リコ「はわわわわっ!」
リコ(カンペに無い言葉がきた。どうしよう……)

慌てるルイ

ルイ「どうしたんだ!? 俺、何かマズイ事言ったか?」
リコ(なんとか説明しなきゃ)
リコ「カンペに……無いから……質問答えられない」
ルイ「カンペ?」

持っている木の板を見て察するルイ

ルイ「……なるほど。何か書いてあるその板の事か」ルイ「その板に書いてないのは答えれないってわけか。だから、慌てたと?」

しょんぼりするリコ

リコ「う、うん」

ため息を零すルイ

ルイ「じゃあ、この質問はどうだ? さっきから板に書き込んでたのは何だ? これくらいは答えられるだろ?」

目を泳がせて答えるリコ

リコ「こ、これはね。ルイちゃんの事で知った事を書き込んでたの……大切なお友達だから……忘れないように」

呆れるルイ

ルイ「書かなくても覚えておけよ」

目尻に涙を浮かべるリコ

リコ「でもでも……忘れちゃったら……お友達辞められちゃう」

真顔になるルイ

ルイ「メモしてないと忘れるような奴の友達なんて辞めようかなー」

鼻水を垂らして大泣きするリコ

リコ「ぅわぁああああんっ!」

クスクスと笑うルイ

ルイ「冗談だよ。メモしてていいから泣くなって」

真顔に戻ったルイ

ルイ「でも、次、泣いたら絶交だからな」

泣くのを辞めて鼻水を啜るリコ

リコ「う、うん」

涙を拭き取り、目周りに力を入れて細めて堪えるリコ

リコ「絶交ヤダから泣かない」

リコの顔を見て腹を抱えて笑うルイ

ルイ「ひゃひゃひゃひゃひゃ。泣くの我慢して人相悪くなってんじゃん」

鼻水を啜ってカンペを持ってルイへ話かけるリコ

リコ「ルイちゃん、次の質問」
ルイ「お? ああ、そうだったな」
リコ「趣味は?」
ルイ「んー趣味かー。勇者になれなかったから、空いた時間に悪さをする魔獣討伐かな。そのおかげでリコに会えたのはラッキーだったな」

木の板に書き込んでいくリコ

リコ「魔獣討伐っと……」

趣味を書き込んだところで完成
明るい表情をするリコ

リコ(やりきったからルイちゃんをイチコロにしたはず)
リコ(もうアイコンタクトで意思の疎通とか出来るかもしれない)

ルイを見つめるリコ

ルイ「何だ? 俺の顔に何か付いてるのか?」

黙って見つめるリコ

リコ(付いてないよ。もう質問もないよ)

目が血走ってくるリコ
ちょっと引くルイ

ルイ「何か喋れよ。怖ぇよ」

ルイを見つめるのを辞めてため息をつくリコ

リコ(やれやれ。ルイちゃんにはまだアイコンタクトでの意思の疎通は難しかったかな)
リコ(まぁ親友になったばっかだし、仕方ないよね)
リコ「もう質問無くなった」

驚くルイ

ルイ「早っ!」

照れるリコ

リコ「えへへへ」

真顔でツッコミを入れるルイ

ルイ「褒めてねぇよ」

驚くリコ

リコ「えぇっ!?」

リコは泣きそうになって我慢する

リコ「ふぐぅ……」

呆れるルイ

ルイ「また泣きそうになってるし……」
ルイ「それで? 質問が終わったけど何かあるのか?」
リコ「最後までやれたからルイちゃん親友になった」
ルイ「親友のハードル低いな」
リコ「……ダメ?」
ルイ「まぁいいけどよー。次は何するんだ? まさか、これだけとか言わねぇよな?」
リコ「……これだけ」

リコ(カンペ会話の後の事を全然考えてなかった。どうしよう……)

泣きそうな顔をするリコ

リコ(お友達なんて初めてだから何をしたらいいか分からない)

首を振って泣くのを我慢するリコ

リコ(ダメだ、涙が出ちゃう。止めなきゃ)

それでも涙が流れてきそうになる

リコは両目を親指で突いて無理矢理涙を止めた

リコ「あぁあああああっ!」

凄く驚くルイ

ルイ「何事!?」

目を閉じて目から血を流すリコ

リコ「泣いちゃうから……目、潰した」
ルイ「そこまでしなくてもいいだろ」

しょんぼりするリコ

リコ「泣いたら絶交なる……」
ルイ「いや、まぁ、そう言ったけども。目が見えなくなるより絶交の方がマシだろ」

そっぽを向くリコ

リコ「絶交ヤダ……目はすぐ治るからこっちのがいい」

ため息をつくルイ

ルイ「治るなら良かったけど。今度から目を潰すなよ。泣いても絶交しないから」

目が治ってルイの方を向くリコ

リコ「ホント?」
ルイ「ああ、本当だよ。泣きそうになる度に目を潰しだされちゃあ、ビックリして心労が半端ねぇからさ」

しょんぼりしているリコ

ルイ「何だ? 暗い顔して。目がちゃんと治ってないとかか?」

更に萎れていくリコ

リコ「治った……でも、この後のプラン無い。何も思い浮かばない」
ルイ「そういう事か。なら、この後は俺に任せてくれないか?」
リコ「ルイちゃんに?」
ルイ「何も思い浮かばないならいいだろ?」

表情が明るくなるリコ

リコ「うん」
ルイ「よし! 決まり! じゃ、早速しゅっぱーつ!」

立ち上がってリコへ手を差し出すルイ

ルイ「ほら行くぞ、リコ」

ルイの手を取り立ち上がるリコ

リコ「うん!」

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