邂逅@カフェ #1:ピピネラキッチン(大阪・中崎町)
カフェが好きだ。
細分化すると、カフェでの思いがけない出会いが好きだ。
人しかり、本しかり、味しかり。
続くかもわからないこのシリーズは、カフェ巡りを趣味とする私が行く先々での巡り合わせ、つまり邂逅を記録していくものになる。
おそらく、もっと写真が豊富なほうが読まれる方には見やすいものになるだろう。
しかし、私のポリシー上、カフェであまりパシャパシャと写真を撮っていくことはしたくない。(実際、写真撮影できるものを提供メニューに限定したり、全て禁止にするカフェも少なくない)
それに、見えない方が、想像の幅が広がるし、
実際に足を運ぶ時の楽しみを温存しておける。
ということで、拙い文章ですがはじまります。
夏が出戻ってきた9月半ば。
私は寒いのに比べて暑いのは平気な方なんだけれど、それでもこの暑さは、とっくに引退したのにそこそこの頻度で部活に顔を出しにくる先輩並みの鬱陶しさは感じる。
ホルモンバランスのせいなのか、テキパキ身支度ができない自分に対してなのか、私はどうしようもなく苛々していた。
こういう時はカフェに限るのだ。
自分のご機嫌取りがヘタクソな私が唯一知っている方法。
(というか自分の気分の起伏は、自分でさえも読めないので、コントロールが非常に難しいという言い訳をしたい。この話も気が向いたら追って書きたい)
本当の目的地は書肆アラビクさんだった。
2年ぶりに引き摺り出してきたキャスケットとおでこがくっつくかと心配になるくらいの汗を流していざたどり着いたものの、現在は喫茶はお休みしているとのこと。
仕方ない、あまり遠くまで移動したくないが谷町線沿いまで足を伸ばすか、と道をそのまままっすぐ歩いたところ。
何故立ち止まったのかは分からないが、左手をふと見ると、こんな看板があった。
「ねこがいます。」
なんと麗しい6文字だろう。
実は、ひっそりと脳内の選択肢には「猫カフェ」も存在していた。
多分、猫の毛には触れると日常生活の小さな苛立ちとかいざこざとかがどうでもよくなる成分が含まれている。
宇宙の広さに思いを馳せると自分がちっぽけに思えるアレに似ている。猫は宇宙だ。
ドアの手書きの張り紙「甘夏ソーダ」も手伝って、私の足は誘われるように中へ。
いざ行かん、宇宙カフェ。
中はガッツリ人間の作り出した空間だった。
アンティーク雑貨や花柄のカーテン、すずらん型の照明。海外の絵本の邦訳版。キュート。
どこにお猫様がいらっしゃるのかと思えばすでに足元に。ウェルカム猫なんて小洒落てる。
私の他は常連さんとマダムの二人。
着席すると、ブルーに白の大きめドット柄の膝丈ワンピースを来たマダムがメニューを持ってきた。
そのメニューの置き方が少々荒かったので、チキンの私は少し怯える。
価格設定は妥当といえば妥当だし、高いといえば高く感じた。
少なくとも人件費がかからない分安くなっている、という印象ではない。
おやつ類は、ドリンクとセットだと100円ほど安くなるという設定。
「なつかしのかすてら」にもこころ惹かれたけど、あまりお腹が空いていなかった。
例の「甘夏ソーダ」は渡されたメニューになかった。
「あの、表に貼ってた甘夏ソーダって、ありますか」って、頑張って聞こうと思えば聞けたんだろうけど、さっきの一件もあってチキンが発動した私は「ラムネクリームソーダ」を注文。
宝石のように透き通る青のグラデーション。
インスタで流れてきてもおかしくなさそうだけど、一度もお目にかかったことがなかった。
待ち侘びている時も、この青いのをちびちびと吸っている間も、マダムと常連さんはずっと保護猫の話をしていた。
店内の「さくらねこ」ポスターなどからも察するに、マダムは猫の保護活動に熱心な方らしい。
あとで調べたら、譲渡会もやっていた。
マダム、ちょっと怖いのかな、って思ったりもしたけど、猫が本当に好きなんだな、猫が好きな人はいい人だ。
いや、そうじゃない、そんな短絡的じゃなくて、猫が好きな人間が愛しいのだ。
どんなに無口でぶっきらぼうな人間でも、猫にはデレデレだったりする。
その不器用さが愛しい。
童心、いや幼女心に返ったかのような内装を設えた空間で猫の話を聞きながら綺麗で甘いのを飲む。
たぶん今日の午後4時台の日本であそこが1番平和だった。
サブレくんという名のお猫様はずっと常連さんの膝の上をキープしていたのだが、気が向いたのか私のところにも来てくれた。
最初は私の膝から下、テーブルの下の狭くて暗いスペースをちょろっと彷徨くくらいだったが、甘えてやってもいいというご気分になられたのか、ニャア、と鳴いて私の膝の上によじ登ってきた。
どぅるるるる、と喉が鳴る。
不思議、この音は人間には真似したくてもできない。
それに、鳴き声と比べてこの音自体は可愛さには欠ける、なんなら字面だとバイクのエンジン音の様なのに、聞こえてくるとどうして口元が綻ぶのだろう。
猫は私を見て何を考えてるのかな、なんて烏滸がましいナルシシズムを頭の片隅に追いやり、毛並みを堪能する。嗚呼宇宙。
それからもお猫様は自分の気の向くままあっちやこっちをうろうろし、時折ご飯待ちをし、時折ぐでんと寝転び、時折独特のポジショニングで昼寝をしていた。
お勘定の時もこうやって寝ていたから、「このスペースがお気に入りなんですね」って話しかけたら、「そう、あと隣の椅子のここも」とマダム。
「だいぶ涼しくなったかな、いや、まだモワッとしてるねえ」と言って戸口まで見送ってくれた。
マダムとお猫様、万歳。
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