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新連載『1000字でわかるすごいひと』第三回 レジェンダリー・スターダスト・カウボーイ編


レジェンダリー・スターダスト・カウボーイ。

この名前を聞いて『ああ、あいつね』とほくそ笑む方はなかなかのアウトサイダー・ミュージック・メイニアでしょう。

レジェンダリー・スターダスト・カウボーイ、本名ノーマン・カール・オーダム。
このひとはテキサス出身のカントリー歌手です。

しかしながら田舎や大自然に想いを馳せ、地元に根ざした音楽活動をする凡百のカントリー歌手とはわけが違います。

なんとこのひとは自作の“宇宙横断許可証”を持ち歩き、あまつさえデヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』の元ネタにもなった(マジです。ボウイ本人が語っているインタヴュー映像も残っています)、伝説のスペース・カウボーイなのであります。

デヴィッド・ボウイが語る、彼との邂逅エピソードは大変面白いです。

ある日、ボウイがロンドンの街を散歩していると、街角で妙な青年を目撃しました。その青年は60年代末UKの街並みで爆浮き必至なカウボーイの格好をしており、しかも道路の真ん中で地図を広げて何やら考えこんでいる様子。

『ヤバい。あいつめっちゃ面白い』。好奇心に負けたボウイは『何してるの?』と青年に声をかけました。

青年はボウイの方を見ることもせずに答えました。

『宝探し』。

ロンドンの街中で地図を広げて宝探しをするカウボーイ。このあまりの異常事態にテンションが上がりまくったボウイは青年に名前を尋ねました。青年は自信ありげな顔を浮かべ、ゆっくりと答えました。

『俺の名前はレジェンダリー・スターダスト・カウボーイだ』。

ご丁寧なことに彼が着用していたGジャンの背中には『THE LEGENDARY STARDUST COWBOY』という刺繍が施されていました。さらにこの“伝説の星屑カウボーイ”を自称する青年は、自作の宇宙横断許可証を差し出しました。

かくして彼の魅力に完全にヤラれてしまったボウイは、そのあと何時間もその青年と話し込み、たちまちマイメンになったそうです。

そしてボウイはその社会から逸脱しまくった異形のパーソナリティをモチーフに、異星から来たスーパースター『ジギー・スターダスト』のキャラクターを作り上げたそうです。

そんなロック史、いやさ音楽史に多大な影響を与えたといっていい彼が1968年に自分のレーベルからリリースしたデビューシングル『パラライズド(痺れちゃったぜ)』は、人々の情緒をかき乱すアウトサイダー・ミュージック永遠のクラシックです。

清々しいほどに狂ったヴォーカル、壊乱したリズム、場違いすぎるトランペット、突如として爆裂するドラムソロなどなど、とにかく何もかもが破綻の極み。まるでスキがありません。いやむしろスキしかありません。スキ一辺倒です。

『みんなを魅了するようなワイルドな曲を書く』をテーマに制作されたこの楽曲は、『当時片思いしていた地元のチアリーダーに対するラブソング』だそうです。

なんと1973年には、NASAがスペースシャトルの乗組員の起床時の音楽としてこれを起用したそうですが、乗組員がこの曲に衝撃を受けすぎてしまい任務に支障が出たため、NASAは現在この曲を宇宙空間で流すことを禁じています。宇宙横断許可証持ってるのに。悲しすぎる。

それからのキャリアも実に華々しい。

90年代に『CDが嫌い』というシングルを7インチで出したり、デッドケネディーズのベースとバンドを組んで『TOKYO』というアルバムをCDで出したり、かなり楽しそうな人生を送っています。

2002年にはボウイがアルバム『ヒーザン』で彼の楽曲をカヴァー。

これはレジェンダリー・スターダスト・カウボーイがブログで『ボウイは俺の名前をパクったくせに俺の曲は全然カヴァーしてくれない』と愚痴ったのがきっかけだそうです。

アルバムはビルボードチャート14位の大ヒット、このカヴァーに喜んだレジェンダリー・スターダスト・カウボーイはお礼にボウイの『スターマン』をカヴァーしました。その甲斐あってか2007年にはなんとボウイのオープニングアクトを務めています。

また、2010年にはミネソタ州マンケート(人口約4万人)の市長が、毎年5月21日を『レジェンダリー・スターダスト・カウボーイデー』として記念日制定したことも大いに話題になりました。

2020年には、『悪魔とダニエル・ジョンストン』で知られる映画監督ジェフ・フォイヤーツァイグによるドキュメンタリー作品の制作が開始されましたが、コロナ禍により現在プロジェクトは中断しているそうです。

ちなみに2022年5月現在も余裕でご存命中であり、たまにNASAの下請けで働いているらしいです。





最近YouTubeに突然アップされた、レジェンダリー・スターダスト・カウボーイのTV出演映像。ちなみにレジェンダリー・スターダスト・カウボーイは何度かTVに出ていますが、バックバンドにストライキを起こされて出演をドタキャンしたことがあるそうです。


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