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【小説】正月明けに会社行きたくない症候群にかかった末路

それはお正月休み最終日の夜10時に襲ってきた。明日から仕事かと考えるたび、心がドゥクンと落ち込む。精神面だけでなく、身体もひどくだるい。先程から母親に「そろそろお風呂入りなさい」と口酸っぱく言われているのにも関わらず、こたつから動けないまま2時間が経った。

「私はどうしたんだろう。年末は腹芸したり縄跳びダンスして、あんなに元気だったのに…。もしかして重い病気が隠されているのであろうか。」

私はふと自分がなんらかの重い病気を患っているのではないかとは考え、夜間外来で診察を受けることにした。

待合室を見回すと、20代から60代の働き盛りであろう人々が、死人のような目をし、ポカーンと口を開けている。そして時折「働きたくねぇ」という言葉がどこからともなくポソポソと聞こえてくる。

私はこの光景を見て、世紀末のような絶望感を抱いた。


「会社行きたくない症候群ですね。」

医師は私から症状を聞くなり、なんのこともないように病名を告げた。

症状としてとは、「こたつとみかん依存」、「会社爆発妄想」、「会社イヤイヤ期」など多岐に渡るそうだ。また働き盛りの人において、仕事始めに発病する傾向にあるという。

医師はこの症状の治癒方法を教えてくれた。

「難しいことではありません。一度普段通り会社に行ってみてください。正月休みが続き、より一層仕事が嫌になっているだけです。一度動き始めると、普段のリズムに戻り、会社がこれほど苦痛ではなくなるはずです。」

私は医師の説明を理解しながらも、腑に落ちてはいなかった。しかし、落ち着き払った医師の言葉を信じ、次の日きちんと仕事に行くことにした。


つらい満員電車を経て、古びたオフィスをくぐると、比較的静かなのに顔がうるさい上司に新年の挨拶、単調な事務作業を行い、ほとほと疲れてしまった。

「あの医師、リズムに慣れると症状はなくなるって嘘じゃないか。」

そんなことを思いながら、いつもの定食屋に入る。そこにはなんと、昨夜の病院にいた死人の目をした1人のおじさんが、むせながらサバ味噌煮をかけこんでいる。

「会社、きたんですね。」

思わず私は話しかけてしまった。びっくりしながらもおじさんは、困惑しながらも少し笑って話し始めた。

「会社がいやだと思っていても、これ食べるとなんか会社来てよかったと思いましたわ。これが先生が言うリズムってやつですかね。」

その姿を見て、私は無意識に言葉を発していた。

「おばちゃん、サバ味噌煮定食屋一つ!!」


会社に行くのは悪いことだけではない。仕事はしたくないけど…。

そう思いながら私は今日も箸を進める。

FIN




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