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『吉野さくら』 ソメイヨシノはなぜ一斉に咲くのか?理科的視点のショートショート

寒い3月が過ぎ、4月になった。
私、『吉野さくら』はふと目と覚ました。
「あ、もうこんな時間。。。」

隣で寝ていた姉も同じタイミングで起きた。
「温かい日差しによって起こされる日も悪くないわね。」
「うん。おねーちゃん、毎日縮こまって、寝てたもん」

外を見ると桜が満開になっていた。
この時期は毎年お花見をする人でいっぱいだ。

今年も広場では、桜まつりが行われている。
「あ。お母さん。」
母がきれいな衣装をまとって、広場で舞っている。
今日は晴れていて、一段とはっきりみえる。

ずっと憧れてきた、みんなに注目され、きれいな衣装に身を包む姿。
「私もあんな風になれるかな。。。」
「お母さんがそうなんだから、あなたもなれるわよ。同じ遺伝子を持ってるんだから」姉がふふっと笑った。

しばらく広場を見ていたが、私がふと疑問に思った。
「桜ってなんで全部同じ時期に満開になるの・・・?」

いっぱくおいて、姉がゆっくりと答えた。。
「。。。ここの桜、ソメイヨシノは全部全く同じ遺伝子だからよ」

「え、、、どういうこと?」

「クローンってことよ。ソメイヨシノは『自家不和合成』て言って、S型遺伝子が雄雌同じ組み合わせの場合、受粉しても受精できないの。だから、接ぎ木で増やす、クローンと同じね。同じ遺伝子なら、同じ気温や環境にある桜は同じ時期に咲くでしょ。」
理系の姉はいつになく、饒舌だ。

「そうなんだ・・・。

じゃあ、逆にソメイヨシノに合わない環境になったら絶滅するってこと?」

一気に全部なくなるなんて考えたらぞっとする。。なんでそんな不利な性質で生まれてきたのだろう。

「そうね、そうなったらソメイヨシノは絶滅する。でも桜っていう種類は絶滅はしないわ。『自家不和合成』の植物は多様な品種が生まれて、気候変動にも強くなれる。生命ってのはそういうものよ。」姉はそっけなく話した。

種類の存続のためにできた性質なのか。。。
じゃあ、ソメイヨシノとして生きるにはクローンになるしかないのか・・・
「ソメイヨシノも違うやつと受粉すればいいじゃない?」

「もちろん、違う桜と交配はできるわ。でも、交配したら全く同じ遺伝子じゃなくなるから、違う品種になるわよ。ソメイヨシノとは呼べないわ。」
優しい口調ではあったが、私の期待とは裏腹に姉は事実を淡々と述べる。

そして、姉は少し自慢げに話を続けた。
「ソメイヨシノは、花だけ大きくピンクに咲くのが特徴なのよ。
母のエドヒガンは濃いピンクだけど、花が小さい。
父のオオシマサクラは花が大きいけど、葉も一緒に出るのよ。
その2人のいいところどりだから、観賞用に愛されてるのよ」

にこっと笑う姉を見ながら、質問を続けた。
「じゃあ、同じ、父と母でもう一回受粉させたら同じようにできるの?」
クローンであることが受け入れがたく、なんども姉に突っかかってしまう。

「それはダメね。同じ父と母で受粉させたけど、ソメイヨシノと同じにはならなかったらしいわ。同じ親から生まれても、兄弟は全く同じにはならないでしょ。」姉はまたもしっかり回答してくれた。

「ふーん。。。ソメイヨシノが生まれたのは奇跡ね」
能力があって、きれいだったから、それを増やしていくのは、なんか残酷なようにも思えた。

私の答えを聞いて、今まで淡々と話していた姉が遠くを見て、悲しそうにつぶやいた。
「そう。。親から生まれるってのは奇跡なのよ。。
 たった一人だもの。私たちと違って

姉が名言しないのでちょっと意地悪した。
「私たちはお母さんのクローンだものね
母と同じようにきれいに咲くことが全てだと思っていたが、他の桜と共にたった一つの生命をつなぐのもいいのかもしれない。

姉が困ったような顔をしたが、前を向いて誰ともなく話し始めた。
「桜の名所である吉野山にちなんで「吉野さくら」私たちの最初の名前よ。それを染井村の植木屋が売ったのね。染井の吉野だから、ソメイヨシノ。江戸時代からずっと愛されてるから生きていられるのよ」


#生物が好き


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