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日本物理学会市民講演会「宇宙を探る地下実験とフィルム」(第2部)

第2部「されど写真乾板, 挑戦の日々 -フィルムで探るニュートリノ,暗黒物質,ピラミッドの謎-」中村光廣先生(名古屋大学F研)

講演内容
-原子核乾板(ピラミッド透視、CHORUS、OPERA, GRAINE)


個人的に面白かったところを紹介します。

〜中村先生を訪ねた4人の厄介者たち〜
①田中宏幸さん(東大地震研)
ある日、田中さんが「火山の透視がしたいんですが」と中村先生を訪ねてきた。中村先生は(OPERAの解析で忙しいのになあ)と思いながらも

協力してみた。するとその結果は世界初の火山の2D画像となり、大変評価された。
中村先生「なんでもやってみるもんだなぁ」


②製鉄会社の人
会社の人「誰もみたことがない溶鉱炉の中、みてみたくないですか?」
中村先生「(科学者は往往にして『誰もみたことがない』という言葉に弱い)やってみましょう」

製鉄会社の人は溶鉱炉の寿命が知りたかったそうな。


③研究室のDの学生 石黒勝己さん
OPERAの解析に疲弊した石黒さん「中村先生、卑弥呼の墓の候補って知ってますか?卑弥呼の墓は木棺はあるが石室はないはずなんです。これって原子核乾板で確認できますよね?」
石黒さんは疲れているんだ、話を聞いてあげなきゃ、と思った中村先生「面白そうだね!」

これで石黒さんのメンタルは回復しただろうと思った中村先生「ふう・・・」
(電話)考古学者のひと「中村先生、話を聞きましたよ!面白そうですね!」
中村先生「本気だったのか」

石黒さんは博士取得後、本格的に考古学の道に進んだそうです。


④NHKのひと
こちらは語るまでもですね。クフ王のピラミッドの透視について放映され、大変話題になりましたとさ、めでたしめでたし。


と行きたいところだが、実はこの裏で深刻な問題が発生していた。デジカメの台頭によるフィルムの需要の低下である。フィルム会社が次々とフィルム製造から撤退していった。
中村先生は落ち込んだ気持ちで写真学会に出かけた。すると、隣に同じように落ち込んだ顔をした人たちがいるではないか。

彼らは会社でフィルムを作っていた人たちであった。自分たちの技術が行き場を失ってしまったのである。そこで彼らから持ちかけられた。
会社の人「名大で独自に原子核乾板作りませんか?」
中村先生「そうはいっても技術や設備はないしなあ」
会社の人「全面協力します!」
かくして乾板製造が始まった。

中村先生「しかし資金がないな・・・とりあえず見積もりはとってみたが」
そんな時。2008年小林・益川両先生ノーベル賞受賞
大学の偉い人「名大に新しく素粒子の研究所をつくるから、欲しいものあったら買ってあげるよ!」
中村先生「これ!(見積書)」

そうして買ったのが当時富士フィルム門外不出と言われた「原子核乳剤製造装置」。これを買ったことで、乾板の製造から実験、現像、解析まで全部自前でできるようになった。さらには商用の制限にとらわれない開発が可能に。(一般に販売するものだと危なくないようにいろいろ制限がある)

たった1年ほどで世界最高感度の乾板の開発に成功。さらに商用には用途がない、「超微粒子の原子核乾板」が実現。これによって暗黒物質探索も可能に。これも1〜2年で成果を出すことができた。

【中村先生のメッセージ】
研究・創造は繋がり広がって、新たな創造になる。それを可能にするのは個人の好奇心と柔軟な対応。何をすることに意味があるのか、それが何の役に立つかは後になってからわかる。まずは「なんでもやってみる!」

質疑応答

Q. 暗黒物質っていうのはまだ何もわかってないと思っていたが、何かわかっていることはある?

A. 様々な実験が進行中。

Q. スライドにたびたび漫画が出てきますが、漫画も文字も先生が描いたもの?

A. はい。

お見せできないのが残念。

Q. 古墳の透視の結果は発表されている?

A. まだ。いつ発表になるかはわからない。(私はお答えする立場にない)

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