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川崎から熱海まで24時間不眠で歩いた話~第一章~

みなさんお待ちかね、体力にモノを言わせたアホ企画第三弾!このシリーズは書いていてもかなり楽しい部類の体験記なので、執筆にも俄然力が入る。
「オラ、ワクワクすっぞ!」
てなもんである。
ちなみに第一弾と第二弾については以下の記事をご覧いただきたい。

第一弾 移動距離約40km

第二弾 移動距離約80km

もう時間も無くなるし、こんな体力バカ企画はやらなくなっていくんだろうなあ、という思いを抱えたまま社会人になったが、その予想は外れた。社会人になろうが「なんかアホな事してえ」という根本の感情はそう簡単に変わるものではなかった。そして社会人は独身なら意外と時間を持て余しているものなのである。

この暇人があ!!だって?

―ありがとう、最高の誉め言葉だよ。

さて、今回チャレンジに挑む仲間は第一弾で登場した友人Gである。そう、あのメロンパンを凍らせてから食う狂気の筋肉男だ。約2年越しの登場に彼の大胸筋もうなりを上げていることだろう。
Gは現在川崎に住んでおり、私がGの家に前泊してからロングウォークをすることになった。つまり川崎がスタート地点となる。私の家は寮なので、こちらをスタート地点にすることはできなかったのだ。
目的地は熱海。静岡県有数の温泉街であり、川崎からは約90km。このチャレンジはゴール後に風呂に入ることが欠かせないため、温泉で有名な熱海は目的地として最適だ。箱根も選択肢としてはアリだが、やはり山道がネックとなる。なんのために箱根駅伝を見ているのかと言うと、こういう時に血迷って目的地を箱根にしないためである。
熱海であれば海沿いを歩くため激しいアップダウンはほぼ無いし、太平洋を望むことは大きなプラスポイントになり得る。
なぜかって?海ってなんかテンションが上がるからである。友人Gは海なし県、私は海なし市出身であることが大きいだろう。

お盆休み前最後の出勤日、この日の仕事が終わったらすぐに新幹線で京都を発つことになっていた。
私は朝からウズウズしており、あまり仕事が手につかなかった。一緒に仕事をしている皆様、本当にすみません。こんなしょーもない事で仕事のパフォーマンスを下げておりました。
さて、謝罪も済んだことだしこの記事が炎上することは無いだろう。予防線はばっちりだ。
ウズウズを抱えたまま早めに仕事を切り上げ、犯罪者のような気持ちでタイムカードを切り、会社を後にした。
その後の私の手際の良さったらもう!どんなエリートサラリーマンもビックリの爆速で荷造り、着替えといったタスクを済ませ、新幹線でGの家へ向かった。(荷造りぐらい前日に済ませとけという批判には耳を塞ぐ)

約2時間の電車の旅を終え、最寄り駅でGと合流した。相変わらずデカい。挨拶代わりに彼の大胸筋に右ストレートをお見舞いしてやる。Gの満更でもない表情がまぶしかった。
さて、そんなド変態行為を駅構内で繰り広げていた私たちだったが、Gが私の恰好を見て半ばバカにしたように笑った。

「そんな恰好で歩く気かよ!!」

そうですけど何か?という私の表情。私はデカめのリュックに上下ユニクロ、靴はサンダルという出で立ちであったから無理もないと思ったが、もちろん歩く際の運動着やランニングシューズはリュックに入れてある。また、風呂に入った後の着替え、バンテリンやテーピングなどの救急道具も入れていたが、無駄な荷物は省いているため見た目ほどは重くない。
という言い訳をしたのだが、Gは聞く耳を持たなかった。ほぼ手ぶらで歩くつもりだったGからすると荷物が多すぎるらしく、特にサンダルについて激しい糾弾を受けた。これは確かに重いしかさばるが、到着後にランニングシューズを履くのが私は嫌だったのだ。汗まみれになる事必至だし、そんな靴を温泉の後にもう一回履くのはごめんだ。
ただ私にも反論の余地はある。手ぶらだと温泉後の着替えはどうするのだ?汗だくのシャツをもう一回着るのか?
と反論した。

「シャツぐらい向こうで買えばよくね?」

―その手があったか…
どう論破してやろうかと考えを巡らしていた私はその一言でディベート場に登壇することなく葬り去られた。そうだ、コンビニでもシャツぐらいは売っているじゃないか。
そこまで考えが及ばなかった自分を恨んだが時すでに遅し。持ってきた服を捨てることもできないので、私はこの布たちと熱海まで歩き通すしかない。

議論には瞬殺されたが、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。とりあえず腹ごしらえという事で、丸亀製麺にてうどんをぶち込む。長距離を歩くためには炭水化物を多めに摂っておくことが重要だからだ。そして何より丸亀は美味い。明太釜玉うどんってなんであんなに美味しいんですかね?

普通の旅行ならそのまま居酒屋で一杯、なんて流れになるのだが、これは普通の旅行ではない。明日の朝から24時間ぶっ通しで歩くという松尾芭蕉もビックリのチャレンジ旅行だ。睡眠時間確保の為に一刻も早く寝床に就かなければならない。私たちはこれから盛り上がりを見せようかという歓楽街を横目に真っすぐGの家へ向かった。

Gの家は駅から10分ほど離れた閑静な住宅街、なかなか便利そうな場所にあった。エントランスは清掃が行き届いており、ロビーや部屋の壁はそれとなく豪華な見た目だ。なかなかいい家に住んでやがる、コイツ。しかし部屋に入ると案の定、バーベルとダンベルが転がっており、ベンチ台が通路の真ん中に異様な存在感を放ちながら鎮座していた。邪魔であることこの上ないが、筋トレ好きな私としては黒光りするメルセデスベンツにも見劣りしない代物に見えた。この挑戦が終わったら私も買おうかしら…。

まさかベンチ台に寝る羽目になるのではあるまいなと思ったが、ソファベッドがあったため、その心配は無かった。ベンチ台に寝る事でエクスタシーを感じられるほどの境地にはまだ達していない。

手短にシャワーを済ませ、22時には就寝した。旧友との再会で話したいことは山ほどあるが、ここでは話題をセーブしておく。明日からいくらでも話す時間はある。
お盆休み前日の夜にこんなに早く寝る社会人なんて私たちぐらいだろう。ここからたっぷり9時間は睡眠時間を確保する計画である。全ての準備は整ったのである。

前回歩いたときは80kmでかなりしんどかった。最後の数kmは足の痛み、疲労、眠気の三重苦で本当に辛く、のどを掻き切って死んでやろうかと思ったぐらいだ。今回歩く距離はそれ以上。加えて真夏という環境的マイナスポイントも付加される。付加されるのはマイナポイントだけで十分だが、これも自らで選んだ道だ。準備が整う事と後戻りが出来る事はトレードオフなのだ。
明日は人生で一番辛い日になるのかな、、という不安と、ゴール後の達成感は凄まじいのだろうなあ!という期待。両者がない交ぜになった感情を抱え、眠りについた。

多分期待の方が大きかった。

~第二章へ続く~

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