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あの世から?

昨夜はなかなか寝つけなかった。たいてい、そういう時に金縛りにあう。

まず、耳鳴りがする。次に、どこかに吸い込まれていくような感覚になり、音が一段階遠くなる。真っ暗な箱に閉じ込められたような感じだ。身体は動かない。声も出ない。首がしまったような、息苦しさ。その次に、どこやらから声が聞こえたり、誰かが来たりする。時には重みを感じることもあるし、体の一部分を潰されるかと思うほどの圧をかけられて、痛みを感じることもある。目を開けると怖いので、いつもは目開けない。まぶたは閉じているのに、なぜか見える。人影や、部屋の様子だ。

ある程度の時間が過ぎて、フッと金縛りが解けた時、部屋はシーンとしているし、誰もいないし、自分も無傷だ。そこで安心して寝ようとすると、また金縛りにかかることもある。油断も隙もない。ただ、この時に、しっかりと目を覚ましておくと、その繰り返しから逃れられることが多い。

最近、タレントの山口もえさんがWOWOWで言っていた。「わたし、金縛りに負けるもんかって、エイッて掴んで、ポイッてしたことあります!」
今回は、それを真似てみた。エイッのところで、もえさんは手首をくるっと返すようにしながら空中を掴んでいた。わたしもやってみた。

無理でした。惨敗。腕どころか、指一本動かなかった。

何がイヤって、誰かが来ることだ。いつもじゃないが、今回は何人も来た。みんな若い(であろう)男性で、白いタオル地のガウンを着たり、腰に白いバスタオルを巻きつけた状態だ。一人がわたしの布団に潜り込んで来た。「だれ?」と聞いたら「来ちゃった♡」みたいなことを言うので、「あなたなんか知らない!出てって!」と叫んだが、声が出なかった。腕を掴んだら、紙のように薄く軽かった。そのほかの男性たちは、部屋の隅に置かれたぬいぐるみみたいに、なぜかダンゴになって息を潜めていた。5〜6人はいたと思う。わたしの「意識」は、隣の夫が寝ている部屋に逃げ込んだ。寝ている夫に訴える。「知らない人がこんなに来た!」しかし、夫は「ん?なに?」と言ったような言わないような顔で、すぐにまた目を閉じた。

ふと気がつくと、わたしは就寝時のままの部屋で、全く無傷な上に、寝返りひとつ打つことなく寝ていた。布団は乱れてないし、部屋はとても静かだった。さっきの夫の様子も、「意識」の中だけのことだったのか。単に夢を見ただけなのか。

霊感があるとか、霊が見えるとか、わたしにはそんな能力はないんだと思う。脳が起きているのに、体が寝ている状態が金縛りだと聞いたことがある。だとしたら、声や音や痛みは、わたしの脳の中で起きていることで、人が見えたり、あるはずもない何かが見えたりするのも、記憶の断片が組み合わさったものなのではないか。

そうだとしたら、気になることはまだあった。学生の頃、真夜中に枕元で大型バイクが走り回る音を聞いた。「お前のおじさんはね…」と誰かが耳元で囁いた。「あんたなんか死ねばいいのよ!」と金切り声で叫んだ女の人が高笑いをしていた。あれもまた、わたしの脳が生み出した幻想なのか。

今では回数がグッと減ったが、高校生の頃は毎晩のように金縛りにかかっていた。その話を同窓会ですると、「ああ、それであなたはあの頃、そっちの方に時間を取られていたんだね」と言われた。いつもぼんやりと集中力がなく、魂が抜けた顔をしていたそうだ。現実味のない存在だったらしい。

歳を重ねて、わたしもあの世がグッと近くなってきた。お願いだからその時まで、あの手この手で様子を見に来ないでほしい。






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