見出し画像

どくしん

さて、今日も夢を見た。毎晩見るのだが、覚えている夢が少ない。今日のは、よく覚えていた。

わたしは映画撮影のグループにいる。
「監督、結婚するってよ」と誰かが言った。うっそ。あの監督が?お腹がポヨンポヨンで、ニコニコしてるとほっぺたまでポヨンポヨンで、クルクルの天パーが揺れて、子豚のぬいぐるみみたいだ。ベージュのジャケットにベージュのチノパン、白のボタンダウンがトレードマーク。いつも同じ格好。あれ?監督の顔がアップになった。うわ、まつげ長ーい。鼻筋もシュッとしてる。もう少し痩せたら、かなりなイケメンになるであろうよ。

そんなことをぼんやり考えていたら、「あなたが候補よ」と言われた。あれ?わたしですか?なぜ?「他に条件がマッチするような人がいないかららしい」と誰かが言った。条件?「わたしにも選ぶ権利がありますよ」と言うと、「監督にもね」と言う。なんだ、監督がわたしを望んだわけではなく、第三者がマッチングしたというわけか。えー。でもなー。監督、いい人だとは思うけど、それ以外には特別な感情を持ったことないし。

素のわたしを知っているとも思えないし、なんでわたしが候補になったのか。「監督、お金持ちらしいよ」と別の誰かが言った。ふえー。そうなのか。わたしは気持ちが揺れた。ムスメが高校生になったし、何かとお金は必要だ。ちょっと、トイレに行きたくなった。

トイレは細長い部屋だった。しかも、天井が斜めに下がってきている設計で、先に行くほど、狭くなっている。床は灰色だ。汚れていない。大変清潔で、そこがトイレだと言われなければわからない。「どこで用をたすんですかー」とわたしは誰かに聞いた。床下収納のような四角い仕切りがあり、わたしはその蓋を開けようとした。ただ、これが便器だとすれば、床にぺたんと座って用を足すことになるし、その中がどうなっているか、想像するのも恐ろしい。蓋を開けずに、一旦ドアの外に出る。

父がいた。ステテコにランニングというラフな格好で、足を伸ばして畳の上に座っていた。顔は笑っていなかったし、何も喋らなかった。母もいた。パンツと肌着だけで、二人とも風呂上りなの?と思った。母も黙ったままで、表情も動かない。「ねえ、お父さん」と声をかけたら、父は顔だけこちらに向けた。表情はない。「わたし、結婚するかもしれないんだけど、いいかな?」と聞いてみた。父は何も答えなかったが、なんとなく「うん」と言った気がした。声ではなく、空気で。しかも、渋々という感じ。そのあと、そっぽを向いてしまった。

部屋の壁が打ち抜かれていて、3LD Kのアパートの部屋が2DKになっていた。「広くなったね」とわたしは驚いて言った。窓から入る光が強く、カーテンの色なのか、黄色く光っている。畳まで黄色く見える。薄い布団とタオルケットが見えた。昼寝でもするのか。

外に出た。わたしは人の流れに乗って移動していた。オレンジ色に染まった夕焼け空をバックに、監督がこちらを向いて立っていた。その脇をたくさんの人がすり抜けて行く。みんなが向かっているのは、映画祭のようだった。その舞台で、結婚を発表するらしい。いや、結婚するかしないかを発表するつもりのようだ。

わたしはドキドキしていた。好きでもない人。好きになるかもしれないし、ならないかもしれない。穏やかに暮らせるかもしれないし、波乱万丈の人生が待っているかもしれない。これは賭けだ。ハズレたとしても、もう引き返せないし、離婚したとしても、子どもは一人で育てなければならない。

そこまで考えて、思い直す。わたしは独身なのか?子どもがいるらしいけど、誰の子?わたしは結婚しているのか?重婚になってしまうと、犯罪だが、そこはどうするのか。監督と結婚したら、忙しくなるのだろうか。

目が覚めてもしばらくは監督のことを考えていた。いや、あれは監督ではなく、シナリオライターで、構成作家の寺坂直毅氏だったのではないか。ネットで顔を検索したら、ビンゴだった。


サポートいただけたら、次の記事のネタ探しに使わせていただきます。