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みみなり

左の耳がへんだ。三日くらい前から、「バサーーー」みたいな音がして、次には空気か液体か、なにかがボッボッボッボッと区切りをつけながら抜けていくような音がする。その時、外界の音は聞こえていない。さらに、痛い。

耳鼻咽喉科に行ってみたら、「見たところは何もないです」と言われた。鼓膜に穴が開いているわけでもないし、耳垢もない。「念のため、聞こえの検査もしましょうね」と言われて、検査室に入った。防音の、狭い箱みたいな部屋だ。硬いヘッドホンは、重く、首が後ろに傾いた。あへ。

「音が聞こえたら、ボタンを押してくださいね」と言われて、「ピー」とか「プー」とか音がするたびにボタンを押した。なんだ、ちゃんと聞こえているじゃないか。わたしはホッとしていた。

ところが、医師は苦い顔で検査のデータを見ている。「平均値よりも聞こえにくくなっていますね」あれ?そうなの?「このグラフは、音の高さと、音量の大きさを表していて、平均値はここですが、あなたの聞こえる範囲はずっと低いです」あれま。「ま、老化現象だから、仕方ないんですが」と付け加えて言われて、がひょーん、と心の中で音がした。わかっちゃいるが、面と向かって「老化ですね」と言われたら、そういうものなのかと思うしかない。

「検査の時のような、ザーっていうノイズみたいな音がします」とわたしが言うと、医師はすかさず「あ、それは耳鳴りですね」と答えた。なんだそうか。これが耳鳴りなのか。「音がしているのに聞こえない、という現象を脳が把握するためにノイズを感じる」みたいな説明を受けた。

「様子を見るしかないですねー」と言うので、「どんな症状が出たら、病院に見てもらうのがいいんですか」と聞いてみた。医師の答えは、「聞こえない」「耳がつまった感じがする」「痛み」「めまい」だった。
「わかりました。老化だったんですね〜」と言って席を立つと、医師は「ごめんなさいね、まだ還暦も迎えてない方に老化だなんて」とすまなそうに言う。いや、そういう配慮はいらないです。と心の中で呟きつつ、家に帰った。

しかし、耳はやはり痛い。今日は一日中寝ていたが、よくならない。そんな話をしたら、友人が「ストレスじゃない?」と言う。わたしの体調不良は、もう全部、ストレスとホルモンのせいに思えてきた。
寝よう。寝よう。もう寝よう。おやすみなさい。

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