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コアビブレイムズ

はい。なんのことか意味がわかった方は福岡にお住まいか、お詳しい方だ。

福岡で一番賑やかな商業エリアは天神。その真ん中にある商業ビルが、「天神コア」「天神ビブレ」「天神イムズ」。もちろん、他にも「博多大丸」や「ソラリアプラザ」「パルコ」「三越」「ミーナ天神(旧マツヤレディス)」などがあるけれど、女子中高生がまず買い物デビューするのは、コア〜ビブレあたり。品揃えが豊富で、価格がお手頃なブランドがたくさんある。コアはギャルのメッカであり、ビブレはバンド系、ホビー系、オタク系を含め、ディープな指向をもった男子が集っていた。「天神イムズ」は、インターメディアステーション(情報発信の拠点)というコンセプトでオープンしたので、他の商業施設とは雰囲気が違って、「新しい」「珍しい」「深い」と思わせるショップがたくさん入っていた。イムズホールは、イベントのほか音楽や演劇の上演もたくさんあるが、近年は「天神寄席」という落語の祭典が有名だ。

なぜこんな話をしているかというと、福岡市は「2024天神ビッグバン」という都市計画を実施しており、すでに天神の中心にある大きなビルが次々と解体され、再開発事業が進んでいるのだ。その一環として、本日2月11日に、天神ビブレが閉店する。コアは3月31日。イムズは2021年8月。

ひとことで言って「もうわたしの天神ではなくなる」という感じだ。20代前半から天神に仕事場があったわたしにとって、天神は仕事場であり遊び場であり学びの場であった。当時、お金はないけれど、好奇心だけは旺盛だったので、新しい店がオープンしたら必ず覗きに行った。路地裏も雑居ビルの中も、よく歩き、自分の世界を広げていった。いいこともイヤなことも、全部天神で起こり、昼も夜も天神を歩いた。

繁華街の商業ビルはテナントの入れ替わりも早い。街もどんどん新陳代謝していく。長く続いて来た店が、代替わりをしたり、店を閉じたりすると、「ああ、そうなのか」と寂しさを感じるものだが、ここまで大規模にテコ入れをするとなると、たぶんこの街は別人になったように変わるのだと思う。もはや寂しさというより、驚きでしかない。

コアの前の横断歩道を何度渡ったか知れない。横断歩道で信号待ちをするとき、向かいを見上げると、天神コアの大きなサインが見える。福田繁雄さんがデザインしたロゴタイプは、グラフィックデザインの授業で習った。トリックアートやピクトグラムなど、幅広い仕事をしてきた福田さんならではの特徴的なデザインだ。一階の路面に面したウインドウは、毎シーズン広告展開とリンクさせた印象的なディスプレイで飾られていた。用がなくても、コアからビブレを通り抜けるだけで、なんとなく楽しい気分になった。

ビブレは、どちらかというと、太陽のコアに対して月のような存在だ。フロアがピタリとくっついて、一つのビルになっているが、ビブレ側に足を踏み入れると、照明のせいか床の色のせいなのか、「薄暗い」と感じる。テナントのバリエーションもツウな感じがする。ビブレの最上階にはビブレホールがあり、メジャーデビュー前の人気バンドや、まだまだこれからのアマチュアバンドがよくライブをしていた。東京から有名なミュージシャンもやってきた。追っかけの女の子たちもよく見かけた。派手なネイル、濃い化粧にミニスカート、金髪に染めた彼女たちは、自分とは縁遠いジャンルだが、一生懸命さには共感できた。そういえばわたしも「あがた森魚を聴きに行かない?あなた聴きそうだから」と誘われて腰が引けたことがある。多種多様なミュージシャンが来たし、地元の劇団もよくここで公演していた。
(今は「よしもと天神ビブレホール」と名を変えて、福岡吉本の常設劇場となっている。)

昨夜、オットが「ビブレが閉店すルところを見に行こう」と言った。自分の青春時代に幕引きでもしようと思っているのか。そして、懐かしさをあらかじめ予約しようというのか。思い出話の素材を集める気まんまんである。

やれやれ。新型コロナウイルスとかインフルエンザとかPM2.5とかが危ぶまれる、あまり好ましくない空気を吸いに天神へ行くことになった。

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