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とんかつ

リベンジである。昨日、げん担ぎの食事ができなかったので、今日こそはと出かけた。店は開いていた。オットはカツ丼、ムスメはカツカレーを注文。そしてわたしは「おろしとんかつ定食」なるものを頼んだ。店員さんが「かしこまりました」と下がってからすぐに、「こちら、おろしとんかつのポン酢です」と瓶を置いて行った。

オーダーの時、よく聞いてなかったオットは「えっ。おろし、とんかつ?」と首を傾げた。「そうだけど?」「お・ろ・し…?なんか、音の響きが縁起悪そう」えー。そうですか。それじゃあ、と店員さんを呼ぼうとしたら「いや、いい、そのままで」と引き留めた。「いやいや、今ならまだ、大根おろしを載せないで、とんかつだけにしてくれるかもしれん」と言っても「いやいや、もういいって。もう注文したんだから!」とオットが言い、「いいって、いいって、好きなものを食べなさいよ」とムスメが言う。

いや、でも、と言いかけた時、「どうせこいつの実力次第なんだから」とムスメの方を向いて、オットが言った。ああ。それを言っちゃあおしまいよ。ムスメはふんと鼻で一つ強めの息を吐き出して、ノートに落書きを始めた。

料理がきた。とんかつ類を黙々と食べる一家三人。弾む会話があるでなし、料理に対しての感想を述べるでなし、ただひたすらに箸を動かす。なぜなら、量が半端ないからだ。ちょっとでも休憩を入れると、「もう入らない」と脳が認識してしまう。わたしたちは満腹中枢が働き始める前に食べ終えなければならない。食べ残してしまうと、なんとなく縁起が悪そうだから。

口では「実力次第だからな」と言ってしまったオットだが、これで、ムスメが不合格の場合、「おまえがおろしとんかつさえ食べなければ」とか言うんだろう。もちろんわたしも「ああ〜、わたしがおろしとんかつさえ食べなければよかったなあ」と言うだろう。不合格を大根おろしのせいにするのもナンセンスだが、どちらにしろ、わたしたちは親バカ丸出しである。


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