なんでだ

葬儀というのは、たいへん形式的なものだ。大抵は、故人が亡くなった時点から火葬に至るまで、タイムスケジュールと共に粛々と進んでいくものである。

今回、オットの母の葬儀にあたり、息子である兄弟二人には様々なミッションが課せられた。喪主は兄である。葬祭ディレクターの女性はハッキリと言い放ったらしい。「わたしは喪主様の言うことしかお聞きしません」

なるほど、場合によっては喪主以外の親族があれやこれやと口出しすることもあるのだろう。喪主の言うことしか聞きません、と言っておけば、勝手なことを言う親族の口を封じることができる。しかし、喪主が偏った考え方だと、良いアドバイスをする親族を遠ざけることになる。諸刃の剣だ。

兄は良識のある人で、もちろん次男であるオットと相談しながら全てを決めていった。ひじょうに平和に決めごとは進んだ。しかし、お母さんが亡くなって、お通夜が翌々日、その翌日が葬儀という、珍しく余裕のある日程だったにもかかわらず、なぜかお通夜が始まる30分前になって、「ここで弔問客にご挨拶を」と言われたらしい。

白羽の矢が立ったのは、オットである。なぜなら喪主である兄は、葬儀、霊柩車の送り出しの時、そして戻ってからの初七日法要の席で挨拶をするので、せっかくだからお前やってくれよ、ということになったらしい。

お通夜の読経が終わり、導師が退席されたところで「それでは、ご次男より、皆様にご挨拶申し上げます」とアナウンスがあった。オットは自分が出て行ったと思ったら、手招きしてムスメを横に立たせた。なぜだ?と思っていたら、挨拶が始まった。「みなさま、本日は母のためにお越しくださって、ありがとうございます。わたくしは、次男の〇〇でございます。そして横にいますのが」と言ってマイクをムスメに向けた。

ムスメは急にマイクを向けられ、戸惑いながら「えっと、孫の〇〇です」と言った。次のオットのセリフはこうである。

「これからの時間は私たち二人でお届けします」

なにが始まる!?どうするつもりなんだ!?

つづく



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