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ホットドッグは気高く

見るからに素人くさいホットドッグだが、これにはこだわりがある。藤原伊織著『テロリストのパラソル』の中に出てくるホットドッグをお手本にしているのだ。

会社勤めをしていた頃、職場で先輩が昼休みに本を読んでいた。「何読んでいるんですか」と声をかけたら「これ」と表紙を見せてくれた。
『テロリストのパラソル』というタイトルからは、全く内容が思いつかない。「面白いですか?」と、と不躾な質問をしたら「うん。すごく」と言って本に視線を戻した。

その後、わたしも読んでみた。すごく面白かった。それまでハードボイルド小説を読んだことはなかったが、次はどの本を読もうか、というくらい気に入った。特に印象に残ったのは主人公が作る「ホットドッグ」だった。作り方の描写もちゃんと書いてある。

わたしはそれから、『テロリストのホットドッグ』として時々作った。キャベツを千切りにし、油を引かないフライパンで炒める。ソーセージを炒め、あらかじめオーブントースターで軽く熱したパンにキャベツとソーセージを挟む。マスタードとケチャップをかけて出来上がり。このやり方で、10年以上やってきた。作る度に「うまい」と思ったし、主人公の気高さや、この本を教えてくれた先輩のことを思い出した。

先ほど、noteに書くならちょっと確認するか、と思って読み返して驚いた。「割ったパンにバターをひく。ソーセージに刻みを入れ、キャベツを千切りにする。フライパンにバターを入れ、ソーセージを炒める。キャベツを投入し、塩、黒コショウ、カレー粉を入れて炒める。パンにキャベツとソーセージをはさみ、オーブンで温める。スプーンでマスタードとケチャップを流して皿に乗せる」と書いてある。うわあああ。全然違うじゃないのよ!

なーにがテロリストのホットドッグだ。エセじゃないか。著者は関西人だから「パチモン」と言うかもしれない。どこで記憶が歪んでしまったのか。

藤原伊織氏は、最初の受賞作から10年間、出版しなかった。しかし、ギャンブルの借金が嵩んで、その返済のために1000万円が賞金である江戸川乱歩賞に応募し、受賞したそうだ。この作品の構想はずっと前からあったのだろうと思うが、受賞を狙って書くのは大きなギャンブルにも似ていると思った。

『テロリストのパラソル』は、江戸川乱歩賞を受賞したのち、直木賞も得ている。この文学賞のダブル受賞は史上初だったとwikipediaに書いてあった。

ホットドッグを週末に作り直してみようと思う。

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