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歩く。

「ウォーキングに行かなければならない」とオット。「行ってらっしゃい」と言うと、「おまえもだよ」と強い口調で言われた。漫才ならボケとツッコミの呼吸が素晴らしいと褒められるくらいのスピード感だった。覚悟を決めて出かけることにした。

日曜日の午前9時。自宅から公園までの道のりは、文字通り、ひとっ走りしてきたランナーやウォーキング帰りの人たちと、次々にすれ違う。その表情は、満足げな疲労感に満ちていた。
「もうみんな帰る時間みたいだよ」とオットに言うと、「ああ。そうだな」とだけ返ってきた。やっぱりここで帰るわけにはいかないようだ。

はい。公園に着きました。眩しい陽射しの中、走る人、歩く人、子どもや犬を連れて散歩する人がいっぱい。遠方の中学校の陸上競技部も練習に来ていて、揃いのユニフォームでザクザクと走っている。この時期は、残暑厳しい折、みなさまいかがお過ごしでしょうかと書くけれども、体感してみると、その厳しさがよくわかった。もう気楽に「残暑厳しい折」などとは書かない。これからは渾身の力を込めて書くことにする。

公園には市の美術館があり、建物全体が太陽光を反射して熱気がこちらに押し寄せる感じだ。暑い。しばらく歩くとスタバが見えてきた。全然うらやましくないが、テラスに座って優雅にアイスコーヒーなど飲んでいる人たちが楽しげに話をしている。わたしは自宅から持ってきた水筒の水を飲んだ。

オットはわたしよりも歩幅が大きい。それでもなんとかついていけるのは、わたしに気を遣って緩めに歩いてくれているのだろうか。

とにかく何も考えずに歩くことにした。足が止まらないことだけを念頭に、1周2kmを淡々と歩く。心拍数がかなり上がっていて、息も絶え絶えだが、1周目が終わる頃「2周は歩かないと、運動したことにならない」とオットが言った。心の中では、あーそうですか、へいへい。と言ったのだが、実際には「はー」と吐く息に音を乗せただけだった。

2周目もオットはわたしに合わせて歩いてくれていたが、途中から突然、スピードを上げ始めた。わたしは心の中で、わたしのことはいいから、もう先に行って。と叫ぶと、以心伝心なのか、オットはウォーキングからジョギングに切り替え、カーブを越えると、あっという間に姿が見えなくなった。

たくさんのランナーに追い越されながら、わたしは歩いた。こりゃもう限界だよと思った頃に、ようやくオットの姿が見えた。木陰に腰掛けて、水を飲んでいた。そこが2周目のゴールだ。近づいていくと、哀れむような目で笑いながら「ただの散歩だな」と言った。高校卒業以来、まともな運動をしてないんだから、仕方ないじゃないかと訴えたら、フッと鼻で笑った。もう、腹も立たなかった。

家に帰ってシャワーを浴びると、オットはさっさとソファに横になった。スマホで動画など見ている。わたしはシャワーを浴びたあと、二人ぶんの汗まみれの服を洗濯機で洗い、昼食の用意をした。洗濯物を干し、食器を洗って片付けた。そしてようやく、横になった。昼寝の後、洗濯物を畳んだ。もちろん夕食の準備や後片付け、お風呂の準備なども、わたしがやるのだ。

んー。なんとなく、今日の運動量というか、労働量は、わたしの方が上のような感じがするのは気のせいだろうか。

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